大学時代の友人・真衣に相談をした、佳奈子。真衣は自身も母を亡くしている経験から、正行の気持ちにも理解を示した上で、「本当に家族が大切なら、悲しませるようなことはしない」ときっぱりと言い切ります。
的確な友人の意見
真衣はカフェで、私の話にじっと耳を傾けてくれた。
自宅にデリヘルを呼んでいたことが発覚するまでの経緯、普段の正行がとても家族思いなこと…。正行のことをきらいになれないこと、マオや義父のこと…。時折、真衣は眉間にしわを寄せ、ぐっとくちびるを引き結んでいた。
話し終えると、真衣はカップを置き、静かに口を開いた。
「…はぁ、信じられない。マジでふざけてるよ」
真衣の怒りが、ひしひしと伝わってくる。その怒りに、私はなぜか少し安堵した。
「佳奈子…よく聞いて。再構築するなら、次にやったら、絶対に離婚、慰謝料請求、親権も全部取るって、きちんと伝えなきゃダメだよ」
真衣は、まっすぐに私の目を見て言った。
「その場で泣き崩れて、『ごめん』って言っただけで許しちゃうのは、優しさじゃない。正行さんを甘やかしてるだけ。また同じことを繰り返すよ」
真衣の言葉は、私の心をエグるように鋭く、そして的確だった。たしかに…私は正行の涙に同情してしまい、強く追及できなかった。
友人の言葉の重み
「正行さんが言ってる『疲れてた』とか『寂しかった』っていうのは、全部ただの言い訳にすぎないでしょ」
真衣は、憤りを隠せない様子だった。
「そう…だよね…」
真衣の剣幕におされるようにうつむく私を見て、真衣はハッとしたように目を逸らした。そのあと、静かにこう続けた。
「ごめん…。私も母を亡くしたからさ…そのつらさも悲しさも、痛いほどわかる。でも、それとデリヘルを自宅に呼ぶのは、まったく別の話だよ…」
真衣は母親を昨年、亡くしていた。そのつらさを知っているからこそ、真衣の言葉には重みがあった。
「『一人になるのが怖い』『寂しい』…その気持ちはわかる。でも、もっと違う方法があるはず。趣味を見つけたり、友だちと会ったり…いくらでもやりようはあるでしょ」
真衣はそういうと沈黙し、ゆっくりと息を吐くと、私の目を見つめて言った。
「本当に家族を大切に思うなら、佳奈子やマオが悲しむことなんて絶対にしないよ」
真衣の言葉に、私は何も言い返すことができなかった。

