脳幹出血になりやすい人の特徴
中高年の男性
脳幹出血を含む脳出血は、60代をピークに発症が多くなります。特に男性は60代で発症数が最も多く、女性も60~70代がピークです。これは、年齢を重ねるにつれて高血圧や動脈硬化にかかる人が増えるためです。実際に、高血圧になる人は、男性では中年期から増え始め、女性も閉経後に増えてきます。体型としては、内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)の方は、高血圧や糖尿病を合併しやすく、脳出血のリスクが高まります。一方、痩せ型でも長年の喫煙や塩分の摂りすぎなどで高血圧になればリスクは上がります。発症しやすい生活習慣として、高血圧を放置している人、自己判断で血圧を下げる薬(降圧薬)を中断している人は要注意です。こうした方は脳出血になりやすい人と言えます。高血圧を予防・治療することが、脳卒中予防に直結します。
塩分過多・多量飲酒・喫煙習慣がある
生活習慣の中でも、高塩分食、過度の飲酒、喫煙は脳出血のリスクを大きく高めます。塩分摂取が多い人は高血圧になりやすく、結果として脳の小動脈が破れやすくなります。また1日のアルコール摂取量が日本酒換算で3合以上(ビール大瓶2本弱相当)を常に飲む男性では、全く飲まない人に比べ脳卒中の発症リスクが約2倍に高まるとの研究があります。女性でも1日2合以上の多量飲酒でリスクが1.5~2倍に上昇します。喫煙も脳出血を含む脳卒中全般の強い危険因子で、吸っている人は吸わない人の2~3倍発症しやすいことが分かっています。以上より「塩辛い食事が好き」「お酒を浴びるように飲む」「タバコが手放せない」という方は脳幹出血になりやすいタイプと言えます。なりにくい人の特徴としては、減塩を心がけ適量の飲酒に留め、さらに禁煙している人です。喫煙をやめると2~4年で脳卒中リスクが明確に下がることもわかっています
脳幹出血の検査法
CT検査
脳幹出血が疑われる場合、まず頭部CT検査を行います。CTはX線を使った輪切り撮影で、脳内の出血は白く鮮明に写るため、緊急診断に適しています。発症直後から血腫(血の塊)を簡単に見つけられ、その形や位置から出血の広がりも把握できます。救急外来では、CTにより数分で診断が下され、そのまま治療方針につながります。撮影は数分で痛みもなく、体への負担も少ないです。脳幹出血と診断されれば、基本的にその日のうちに入院となり、集中治療が開始されます。重症度によりICU(集中治療室)に収容され、容体が安定するまで24時間体制で監視されます。脳卒中全体の平均入院期間は約77日と報告されており、リハビリを含め数ヶ月の入院になることも珍しくありません。脳幹出血の場合も、後遺症の程度によっては長期の入院治療・リハビリが必要です。
MRI検査
MRI検査も脳幹出血の診断・評価に有用です。CTが迅速な出血検出に優れる一方、MRIは脳の柔らかい部分の詳細な評価に適しています。脳幹の細かな構造や、小さな血腫、過去のわずかな出血痕、血管奇形の有無などを確認するため、状態が落ち着いた後にMRI検査が行われます。特に、海綿状血管腫などはMRIで特徴的な画像を示すため、原因検索目的で撮影されます。検査時間は20~30分程度かかります。
血管造影検査
脳幹出血の原因として高血圧以外の原因が疑われる場合、造影剤を用いた造影CT検査や、必要に応じてカテーテルを用いた脳血管撮影検査を実施します。これにより、脳幹部の海綿状血管腫や動静脈奇形など、血管の異常がないか詳しく調べることができます。脳血管撮影検査は脳神経外科あるいは放射線科で行われることが多いです。局所麻酔のもと、足の付け根などから細いカテーテルを動脈内に挿入し、脳の血管に造影剤を流してX線撮影します。カテーテル検査は原則として数日間の入院が必要です。
脳幹出血の治療法
集中治療
脳幹出血の基本的な治療は、内科的な集中治療です。具体的には、高血圧があれば、速やかに降圧薬(血圧を下げる薬)でコントロールし、脳の浮腫(むくみ)に対しては、浸透圧利尿薬(むくみを取る薬)やステロイドで対処します。また、出血により呼吸や循環が不安定になるため、必要に応じて輸血や強心薬、気管に管を入れる気管挿管と人工呼吸管理を行います。意識が悪く自分で呼吸することが難しい場合は気管挿管を行い、長期化しそうなら気管切開をして管理します。加えて、血糖値や体温の管理、脳圧を下げる薬の使用など、全身と脳の両面からの集中的なケアが行われます。
手術治療
脳幹は脳の深いところにあり、生命維持に重要な機能がぎっしり詰まっているため、外科手術による積極的な治療は限られています。一般的に、脳幹出血で頭を開けて(開頭手術)血の塊を取り除いても、周りの脳を傷つけるリスクが高く、それに見合うだけの効果が得にくいと考えられています。そのため、ほとんどの場合は手術せず、内科的な治療(薬などで全身状態を管理する治療)に徹します。
ただし、例外的に、脳の脳室(脳の中にある液体がたまる空間)に出血が広がって「水頭症」という状態になっている場合は、「脳室ドレナージ術」を行うことがあります。これは、頭に細い管を入れて、溜まった血液と脳脊髄液(脳の周りを満たしている液体)を体の外に出す処置です。
また、出血の原因が脳動静脈奇形や腫瘍であった場合、命の危険がある時期(急性期)を乗り越えた後に、それらの原因となっている病気に対する手術や治療(摘出術やガンマナイフ、腫瘍の治療など)を検討します。手術が必要と判断されれば、脳神経外科医が担当します。脳幹出血そのものは緊急の病気ですが、手術治療については患者さんの状態を慎重に見極めてから選択されます。基本的に脳幹出血では「手術できないケースが多い」ことを頭に入れておき、手術後も重い後遺症が残る可能性があることを理解しておく必要があります。
リハビリテーション(リハビリ)治療
脳幹出血の緊急時の治療が終わった後は、体の機能を回復させるための「リハビリ」が非常に重要です。重い後遺症が残る可能性が高いため、少しでも麻痺や嚥下障害(食べ物・飲み物をうまく飲み込めなくなること)などを改善し、日常生活動作(着替えや食事など)を向上させる目的でリハビリ計画が立てられます。
リハビリは大きく、急性期・回復期・維持期に分けて行われます。
・急性期(発症から数週間):ベッド上で関節が固まらないように、介助者が動かす「他動運動」や、体の向きを変える「体位変換」、嚥下訓練などを始めます。意識がはっきりしてくれば、座る練習や、立ち上がったり歩いたりする練習も、病状に応じて早い段階から始めます。最近の研究では、発症早期からリハビリを開始した患者さんの方が、その後の経過や後遺症の改善が良好であることが示されています。
・回復期(発症から1~6ヶ月):専門のリハビリ病棟で集中的に、理学療法(運動機能の回復)、作業療法(日常生活動作の改善)、言語療法(言葉や飲み込みの機能の回復)を行い、生活動作を自分でできるようになることを目指します。
・維持期(発症から6ヶ月以降):自宅や病院の外来でリハビリを続け、機能の維持と再発予防に努めます。
緊急の治療後、患者さんの状態が安定したら、回復期のリハビリ病棟への転院を検討します。リハビリそのものは緊急の処置ではありませんが、「いつ始めるか」が重要です。できる限り早い段階からリハビリを開始することで、機能回復の可能性を最大限に高められるとされています。
脳幹出血を予防する方法
血圧コントロール
脳幹出血を含む脳出血の予防には、高血圧の予防・治療が何よりも重要です。高血圧がなければ、脳出血はかなり防げると言われるほどで、実際に健康診断で高血圧を早期に発見し、適切な治療を行うことで脳卒中の発症が減少することが証明されています。具体的には、家庭で測る血圧で130/80mmHg未満(65歳未満の方は125/75mmHg未満)を目標に管理すると良いでしょう。血圧管理には、減塩や適切な体重の維持、ストレスの軽減も有効です。必要に応じて内科で降圧薬を処方してもらい、長期にわたり血圧をコントロールしましょう。
禁煙、節酒
タバコとお酒は、いずれも脳卒中の危険因子です。喫煙は脳出血だけでなく、脳梗塞やくも膜下出血も含めた発症リスクを2~3倍に高めます。禁煙すると、2~4年かかりますが、確実にリスクが低下します。できるだけ早く禁煙し、受動喫煙(たばこを吸わない人が他人のたばこの煙を吸うこと)も避けましょう。
また、過度の飲酒は脳出血の大きなリスクです。アルコール摂取60g(日本酒2合半相当)を超える習慣的な飲酒者では、脳梗塞のリスクが約1.7倍、脳出血のリスクは約2.2倍になるとの研究報告があります。適度な飲酒量(日本酒1合程度まで)なら脳卒中リスクを下げる傾向も報告されていますが、「適度」の範囲を超えないよう注意が必要です。一般的には、男性で1日2合、女性で1日1合以下に留めるのが無難です。それ以上飲む習慣がある方は、お酒の量を減らすことや、お酒をやめることを検討してください。
食事改善と適度な運動
日々の食生活と運動習慣も、脳幹出血の予防に直結します。まず食事では減塩が最も重要です。食塩摂取量が多い人ほど脳卒中発症率が高く、最も塩分摂取が多いグループは、少ないグループの1.5倍以上も発症リスクがあったとの研究があります。和食中心の方でも、醤油や漬物の量を見直し、一日6g未満の塩分摂取を目標にしましょう。また、野菜や果物、乳製品を積極的に摂ることも有用です。野菜や果物に多いカリウムには血圧を下げる作用があり、摂取量が多い人は脳卒中リスクが約20%低下するとのデータがあります。
次に運動ですが、適度な有酸素運動は、血圧・血糖の改善や肥満解消に効果的です。週に150分程度の中程度の強度の運動(速歩や軽いジョギング、水泳など)を継続すると、高血圧や糖尿病の予防につながります。無理のない範囲で日常的に体を動かし、筋力維持も図りましょう。ただし、重いものを持つなど、瞬間的に血圧が上がる動作は控え、運動中も水分と休息を適宜とってください。バランスの良い食事と運動によって生活習慣病を遠ざけることが、結果的に脳幹出血の予防に直結します。
「脳幹出血の余命」についてよくある質問
ここまで脳幹出血の余命などを紹介しました。ここでは「脳幹出血の余命」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
脳幹出血を発症すると何年生きられるのでしょうか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
脳幹出血の余命は、出血の重症度、出血量、発症時の意識の状態、年齢、合併症の有無など、多くの要因によって大きく異なります。そのため、一概に「何年生きられる」と断定することは非常に難しいです。
一般的に、脳幹出血は生命維持に不可欠な脳幹の機能を障害するため、重篤な場合は発症後数時間から数日で命を落とすケースも少なくありません。しかし、出血量が少なく、意識障害も軽度な「軽症」の場合であれば、命が助かり、その後のリハビリによって機能回復を目指せる可能性もあります。
脳幹出血を含む脳出血全体の平均余命は、約12年程度と報告されていますが、これはあくまで統計的な平均値であり、個々の患者さんの状況によって大きく変動することを理解しておく必要があります。
脳幹出血の5年生存率を教えてください。
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
脳幹出血に限定した5年生存率の明確なデータは限られていますが、脳幹出血を含む「脳出血全体」の5年生存率は、約24%という報告があります。
この数字は、脳出血を発症した患者さんの半数以上が発症から5年の間に亡くなる可能性が高いことを示唆しており、脳幹出血が非常に重篤な疾患であることを裏付けています。
ただし、この生存率は、患者さんの発症時の意識レベル、出血量、年齢、合併症の有無、治療開始までの時間、その後のリハビリや全身管理の質など、多くの要因に左右されます。特に、若い方(50歳以下)は高齢者(70歳以上)よりも5年生存率が高い傾向にあることが示されています。また、発症時の意識レベルが重度であるほど、死亡リスクは著しく高まります。
まとめ
脳幹出血は、脳の生命維持に不可欠な中枢機能が集中する「脳幹」で起こる非常に重篤な病気であり、わずかな出血でも命に関わったり、重い後遺症を残したりする可能性が高い病気です。その余命は、出血の重症度、発症時の意識状態、出血量、年齢など多くの要因に左右され、特に重症例では予後が厳しいのが現実です。手術が原則として行われないため、治療の中心は、血圧管理や脳のむくみ(脳浮腫)の予防といった手術をしない治療(保存的治療)となります。
脳幹出血は確かに厳しい予後を持つ病気ですが、その事実だけを強調すると、患者さんやご家族に絶望感を与える可能性があります。しかし、決して回復の見込みがゼロというわけではありません。命が助かった場合、早期からの専門的なリハビリテーションは、機能回復を促し、寝たきり状態を回避し、生活の質を向上させるために極めて重要です。近年では、再生医療のような新しい治療法も、回復の可能性を広げるものとして期待されています。
最も重要なのは、脳幹出血の予防、そして万が一症状が現れた場合の早期発見と迅速な対応です。
「脳幹出血」と関連する病気
「脳幹出血」と関連する病気は5個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経系
脳出血脳動静脈奇形
海綿状血管腫
脳動脈瘤内科の病気
高血圧症
脳幹出血の原因となるのは脳血管の異常や、高血圧といった生活習慣病が深く関わっています。
「脳幹出血」と関連する症状
「脳幹出血」と関連している、似ている症状は9個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
激しい頭痛
めまい呼びかけに反応しなくなる
片側の手足の力が入らなくなる
片側の手足のしびれる
ろれつが回らない
言葉がはっきりしない
飲み込みづらい
食べるとむせる
これらの症状が急に出現した場合は、脳卒中の可能性があるため救急車を要請し、病院を受診するようにしてください。
参考文献
脳卒中治療ガイドライン 2021 [改訂2025]
Incidence and 10-year survival of intracerebral hemorrhage in a population-based registry. Stroke. 2009
Five-year survival-after first-ever stroke. Bosn J Basic Med Sci. 2006
厚生労働省. 令和2年(2020)患者調査の概況.
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