ひと夏の物語を描いた映画『グッドワン』の見どころを紹介。大人の入り口に立った少女が、男性たちを鋭い視線で見つめながら自身と向き合う姿に心動かされる1本!

ひと夏の物語を描いた映画『グッドワン』の見どころを紹介。大人の入り口に立った少女が、男性たちを鋭い視線で見つめながら自身と向き合う姿に心動かされる1本!

2026年1月16日より全国公開された『グッドワン』は、湖と清流に抱かれたキャッツキル山地を舞台に、17歳の少女が"大人の不完全さ"に気づき、自分の内に芽生える違和感と向き合っていく物語。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。
映画『グッドワン』のメイン写真
映画『グッドワン』のメイン写真 / (C)2024 Hey Bear LLC.


【ストーリー】
17歳の少女サム(リリー・コリアス)は、父クリス(ジェームズ・レグロス)と彼の旧友で元俳優のマット(ダニー・マッカーシー)と共に、ニューヨーク州キャッツキル山地へ2泊3日のキャンプに出かける。

几帳面で支配的なクリスは再婚して幼い子どもを抱えているが、仕事も家庭もうまくいっていない様子。一方マットは離婚で荒み、役者としても行き詰まり、準備不足のまま旅に加わっていた。

車内で離婚の大変さを語るマットに、「結婚は妥協の連続」と言い、前妻より今の妻のほうがラクだと娘の前で平然と話すクリス。サムは、息子の気持ちに無自覚なマットに「相手の気持ちを考えてみたら?」と助言するが、彼は「いつも考えている」と答えるだけでサムの言葉は響かない。

旅路の間、長年のわだかまりをぶつけ合いながらも、ゆるやかにじゃれ合うクリスとマット。年齢以上に聡明なサムは、彼らの小競り合いに半ば呆れつつも、聞き役、世話役を全面的に引き受ける。

ところが、クリスとマットの行動によってサムの“大人への信頼”が裏切られたとき、サムと父は“親子の絆が揺らぐ瞬間”を迎えることになるのだった…。
【写真】父と、父の旧友と三人でキャンプに出かけた17歳の少女サム(リリー・コリアス)
【写真】父と、父の旧友と三人でキャンプに出かけた17歳の少女サム(リリー・コリアス) / (C)2024 Hey Bear LLC.


■期待のネクストブレイク俳優の繊細な演技に引き込まれる!
本作の監督を務めたのは、ケリー・ライカートやグレタ・ガーウィグに続く新世代の才能として注目されるインディア・ドナルドソン。テキスタイル業界から映画界へ転身した異色の経歴を持ち、トム・クルーズ主演の映画『カクテル』などを手がけた名匠ロジャー・ドナルドソン監督の娘としても知られている人物。

そんな彼女の長編デビュー作である本作は、カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)にノミネートされ、サンダンス映画祭でも審査員賞候補となるなど、国際的に高く評価された。映画評論サイト「Rotten Tomatoes」では批評家98%、観客74%という驚異的なスコアを獲得し、シャンゼリゼ映画祭ではアメリカ独立長編映画部門グランプリを受賞して話題に。

主演を務めたのは、新星リリー・コリアス。西ロサンゼルスで、ギリシャ人の父とフランス人の母の間に生まれたリリーは、ロサンゼルスのリー・ストラスバーグ・インスティテュートで演技を学んだあと、高校在学中に本作で初主演を果たし、ネクストブレイクが期待される俳優となった。

本作では、父親と父親の友人マットとのデリカシーのない会話を静かに聞き流し、小競り合いから二人の関係がこじれないように気遣い、どこか抜けているマットのフォローを嫌な顔を見せずに行うサムを繊細に演じたリリー。落ち着いた雰囲気を醸し出しつつもあどけなさの残る表情に引き込まれ、彼女がこれからどんな役を演じていくのか楽しみになった。

ちなみにリリーはチャニング・テイタム主演の映画『Roofman(原題)』にキルスティン・ダンスト演じる女性の娘役で出演しており、今後はA24のホラー映画でメインキャストとしての出演が決まっているそう。
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父親・クリス役には『ドラッグストア・カウボーイ』(1989年)で注目を浴び、その後『リビング・イン・オブリビオン/悪夢の撮影日誌』(1995年)『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(2016年)など話題作に出演している名優ジェームズ・レグロス、そして友人のマット役はドラマ『プリズン・ブレイク』(2005-2006年)の特別捜査官ヘイル役として注目を集め、現在は人気テレビシリーズ出演をはじめ、ブロードウェイ、オフ・ブロードウェイでも活躍するダニー・マッカーシーが演じている。

この二人が醸し出す香ばしいおじさん臭がまたリアルで(笑)、自分がもしサムだったら父親とはすぐ口論になるだろうし、準備不足でもなんとかなると思っているマットには秒でキレてしまうかもしれない…そう思いながら鑑賞していた。
左から元俳優のマット(ダニー・マッカーシー)とサムの父親クリス(ジェームズ・レグロス)
左から元俳優のマット(ダニー・マッカーシー)とサムの父親クリス(ジェームズ・レグロス) / (C)2024 Hey Bear LLC.


■思春期の少女が“いい子ではない自分”と向き合う姿に心動かされる作品
タイトルの「グッドワン」とは“いい子”という意味もあるそうで、主人公のサムは父親とその親友と三人でキャンプに行くのを嫌がらないまさに“いい子”。自分が10代の頃なんて、父親から「二人で食事に行こう」と誘われてもきっと断っていたし(反抗期ではなく)、キャンプなんて問題外。だからサムの父親はきっと娘の気持ちがよくわかる優しい人なのだろうなと鑑賞前は思っていた。

ところが、冒頭から仕事相手の女性の悪口を言い、旅の道中では些細なことで娘に八つ当たりする幼稚な父親を見て、最初にイメージしていた父親像とかなり違っていたことに驚いた。だけどサムはそんな父親クリスと父親の親友の言動を静かに見つめ、観察し続ける。もちろん、一緒にキャンプに行くぐらいだからクリスにもいいところがあるのだろう。
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父親の失言はまだ許せるが、物語の後半でマットがサムに気持ちの悪い一言を放った場面は寒気がした。そしてそのことをサムから打ち明けられた父親の反応にも絶望。このあとのサムの小さな反抗には笑ってしまったが、そうやって父親のことを“完璧ではない一人の人間”として見つめ、“いい子ではない自分”と向き合いながら大人になっていくのかもしれない、そんな風に思った。

クリスとマットの言動にはイライラするが、キャッツキル山地のキャンプシーンは大自然の美しい風景が物語を彩っている。この景色を大きなスクリーンで見るだけでも大いに癒やされる作品だ。

10代の繊細な心の揺らぎを描いた本作。サムと同世代の方たちにはもちろん、娘さんとの関係がうまくいっていない世の中のお父さんたちにもぜひ劇場で鑑賞してもらいたい。
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文=奥村百恵

(C)2024 Hey Bear LLC.

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