「自分ががんになったらどうする?」緩和ケア医に聞く後悔しない生き方のヒントとは

「自分ががんになったらどうする?」緩和ケア医に聞く後悔しない生き方のヒントとは

もし自分が「がん」と告げられたら、あなたは何を大切に生きたいですか? 治療だけでなく“その人らしい時間”を支えるのが緩和ケア医の役割です。多くの人生の終盤をサポートし、死に立ち会ってきた、たかみざわ医院の高見澤先生に「自分ががんになったときにはどうしたらよいのか」「理想的な死とは?」など詳しくお聞きしました。

※2025年11月取材。

高見澤 重彰

監修医師:
高見澤 重彰(たかみざわ医院)

東京慈恵会医科大学 医学部卒業。東京慈恵会医科大学葛飾医療センターで初期研修を修了し、東京慈恵会医科大学泌尿器科学講座へ入局。東京慈恵会医科大学附属病院のほか、多くの関連病院で研鑽を積む。その後、川崎市多摩区内の医療・介護・保健・福祉グループで訪問診療に携わり、埼玉県立がんセンター 緩和ケア科に入職。令和6年度埼玉県立がんセンター主催 緩和ケア研修会では、ファシリテーターとして開催に携わる。2025年6月に「医療法人社団たかみざわ医院」の理事長・院長に就任。日本泌尿器科学会泌尿器科専門医、日本緩和医療学会緩和医療認定医、PEG・在宅医療学会嚥下機能評価研修会修了、手術支援ロボットda vinci Xi Training As a First Assistant、難病指定医。

もし自分ががんになったら。「何を大切に生きたいか」を考える

もし自分ががんになったら。「何を大切に生きたいか」を考える

編集部

がんの患者さんが大切にしていることには、一般的にどのようなことが多いのですか?

高見澤先生

がん患者さんが大切にしていることは本当に人それぞれです。痛みをできるだけ抑えて安心して過ごしたい人もいれば、多少つらくても自由に動いてやりたいことをしたいと考える人もいます。「家族や信頼できる人と一緒に過ごしたい」「慣れた自宅で過ごしたい」「家族に負担をかけたくない」。そんな気持ちを抱く人もいます。一つ共通しているのは、「自分らしく過ごしたい」という思いです。その人にとっての“自分らしさ”を大切にできる環境づくりが、がんのケアではとても大切です。

編集部

先生が「もし、がんになったら」と想像したとき、最も大切にしたいことを教えてください。

高見澤先生

がんが進行したと仮定して、まず望むのは痛みなどのつらい症状をしっかりコントロールすることです。それは身体の負担を軽くするためだけでなく、「自分のための時間」をきちんと持てるようにするためでもあります。症状が落ち着くことで、初めて「残された時間をどう過ごしたいか」「誰とどんな時間を過ごしたいか」という、本当に大切なことに心を向けられるようになると思います。

編集部

「大切にしたいこと」は、治療法の選択にも関わってくるのですか?

高見澤先生

はい。たとえば痛みの治療一つをとっても、鎮痛効果を優先すれば眠気などの副作用が出ることがあります。一方で、「少し痛みが残っても起きて家族と話したい」という方もいます。どちらが正しいということではなく、その人が「どんな時間を過ごしたいか」で最適なバランスは変わります。緩和ケアの役割は、その思いを聞き取りながら一緒に調整していくことだと思います。

編集部

家族や友人との関わり方にも影響があるのでしょうか?

高見澤先生

これまで関わってきた患者さんの多くが、「家族に迷惑をかけたくない」と口にされています。でも本当は、支えてもらうことは弱さではなく、相手に「あなたに関わる機会」を与えることでもあるのです。だからこそ私は遠慮しすぎずに気持ちを伝えたり、感謝を言葉にしたりすることを大切にしてほしいと思っています。最期まで“人とつながっている”と感じられることが大切だと思います。

緩和ケア医が考える「望ましい死」とはなにか

緩和ケア医が考える「望ましい死」とはなにか

編集部

先生が考える「望ましい死」とは一体どのようなものでしょうか?

高見澤先生

2007年に医学雑誌「Annals of Oncology」に掲載された論文には、「がん治療におけるよい死」があります。この研究の目的は、日本のがん治療における「よい死」とはどのようなものかを調べ、よい死であるための各要素について、それぞれの重要性を明らかにすることでした。

編集部

「よい死であるための重要性」とはどのようなものですか?

高見澤先生

この研究は一般住民のほか、認定緩和ケア病棟で亡くなったがん患者さんの遺族も対象におこなわれました。「身体的・心理的な安らぎがある」「好きな場所で最期を迎える」などさまざまな要素を取り上げ、対象者に「よい死を迎えるために重要かどうか」を各々尋ねた結果、10個の要素が最も重要であるということが明らかになりました。

編集部

10個の要素について教えてください。

高見澤先生

以下に10個を挙げてみます。
 
① 身体的・心理的な安らぎ
痛みや息苦しさ、不安や恐怖ができるだけ和らいでいること。「苦しまない」「穏やかに過ごせる」ことは最も基本的な願いです。
 
② 好きな場所で最期を迎えること
自宅など、自分が落ち着ける場所で最期の時間を過ごしたいという思い。「家族のそばで」「自分のペースで過ごしたい」と望む方が多くいます。
 
③ 医療スタッフとの信頼関係
気持ちを伝えやすく、話をきちんと聞いてもらえる安心感。「任せられる」と思えることが心の支えになります。
 
④ 希望と喜びを保つ
病気の中でも、小さな楽しみや希望を見つけ続けられること。孫との会話、好きな音楽など“生きている実感”のある時間です。
 
⑤ 他者への負担にならない
「介護で大変な思いをさせたくない」「自分のことで家族が疲れないように」など、優しさから出る思い。
 
⑥ 家族との良好な関係
気持ちが通い合い、「ありがとう」「ごめんね」などを伝えられる時間。
 
⑦ 自分の体や判断をできるだけ自分で決められること
「意識がはっきりしていたい」「自分で選びたい」という希望。
 
⑧ 心地よい環境で過ごせること
静かで落ち着いた空間、家の匂いや光を感じられる安心感など、五感での心地よさのこと。
 
⑨ 一人の人として尊重されること
病気になっても、“一人の人間として尊重されている”と感じられること。「患者さん」ではなく「○○さん」として扱われることが、自尊心を保つ助けになります。
 
⑩ 人生のしめくくりを感じられること
人生を振り返り、「やりきった」「伝えたいことを伝えられた」と感じられること。「ありがとう」「幸せだった」と思える時間があること。

編集部

これら10項目のうち、何を大事にするかは人それぞれなのですか?

高見澤先生

これらは多くの人が共通して大切だと考える項目です。しかし、その優先度は人によって異なります。そのため、緩和ケアではその人が何を大事にしているのかなど、個人の価値観に応じたケアをすることが大切。同時に、そうした情報を患者さんのご家族とも共有しながら、みんなで患者さんを支えていくことが重要だと考えています。

配信元: Medical DOC

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