最期を考えることは、「今の生き方」を見つめ直すこと
編集部
この研究を、私たちは日々の生活でどう活かしたらよいのでしょうか?
高見澤先生
この研究は、「自分がどう生きたいか」を考えるきっかけになると思います。たとえば、自分はどんな時間を大切にしたいのか、どんな支えがあれば安心できるのか。そうしたことを日ごろから少しずつ意識しておくことで、いざというときに後悔の少ない選択ができると思います。
編集部
なるほど。たとえがんではなくとも、そうしたことを普段から意識しておくといざというときの助けになりますね。
高見澤先生
そうですね。同時に、「自分の親やパートナーなど親しい人が何を大切にしたいのか」を考えるきっかけにもなります。医師としても、患者さんがどんな思いで日々を過ごしているかを想像しながら診療をしていますが、家族や友人の立場でも同じです。もし身近な方が病気になったとき、「この人はどう過ごしたいのだろう」と一緒に話すことが、互いに安心して向き合える第一歩になると思います。
編集部
自分ががんになったとき、どうやったら「望ましい死」を迎えることができますか?
高見澤先生
「望ましい死」を迎えるために大切なのは、病気の経過そのものよりも、“自分がどう生きたいか”という思いを大切にすることだと思います。自分が何を大切にしたいかを早い段階から考えておくこと、そしてその思いを家族や医療者と共有しておくことが重要です。
編集部
共有することが大事なのですね。
高見澤先生
私が関わってきた患者さんを振り返っても、「家族と温泉に行きたい」「趣味だった写真をもう一度撮りに出かけたい」「どうしても会っておきたい人がいる」など、その方にとって大事な願いがあります。そうした思いを聞かせていただくことで、体調に合わせながら可能な方法を一緒に考え、その人らしい時間を実現するためのサポートができます。望ましい最期とは、特別なことをするというより、自分らしさを大切にしながら、残された時間をどう過ごすかを一緒に考えていく過程にあるのだと感じています。
編集部
緩和ケアとは、望ましい死を迎えることをサポートするのと同時に、その人らしい生き方を支えるものでもあるのですね。
高見澤先生
痛みや不安が和らぎ、自分の時間を自分らしく過ごせるようになると、周りのご家族も自然と穏やかにその時間を見守れるようになります。そうした姿を見ていると、「最期までその人らしかった」と感じられることが多く、それが残された方にとっての大きな慰めにもなるのだと思います。
編集部
近年では、緩和ケアは終末期医療としてだけではなく、がんの初期の患者さんにも提供される傾向が強いと聞きました。
高見澤先生
その通りです。がんの緩和ケアは「終末期だけのもの」ではなく、初期の段階から受けられるケアです。診断時からの緩和ケアは国も推奨しており、痛みが軽いうちから相談することで、QOL(生活の質)を保つことができます。また、不安や落ち込みなどの“気持ちのつらさ”も症状の一つ。身体の痛みと同じように、早期から専門家のサポートを受けることで、心身ともに楽に過ごすことができます。がんと診断されたらぜひ、緩和ケアを受けることも選択肢の一つとして考えてほしいですね。
編集部
最後に、メディカルドック読者へのメッセージをお願いします。
高見澤先生
緩和ケアは、ほかの治療科とは少し異なる視点を持つ医療かもしれません。治療の目的は病気を抑えることだけではなく、その人が望む生き方を支えること。自分や大切な人の「こうありたい」という思いを、どう医療とつなげていくか。それを一緒に考えていくのが、緩和ケアの本当の役割だと思います。私自身は病院の緩和ケアでの経験を活かして、現在はご自宅でその人らしく過ごすお手伝いをさせていただいています。
編集部まとめ
緩和ケアは、病気の重さやステージに関係なく、“その人がその人らしく過ごすこと”を大切にする医療です。痛みや息苦しさだけでなく、不安・迷い・気持ちの落ち込みなど、心の負担まで幅広く支えてくれます。つらさを我慢せず、日々の生活を楽にするためにも早めに相談してみませんか?

