⑤油彩だけで少なくとも4枚描かれたモチーフ
ファン・ゴッホは、気に入ったモチーフを何度も繰り返して描いていました。跳ね橋の作品も複数あり、油彩だけでも少なくとも4点が知られています。ほかに、水彩やスケッチでも跳ね橋を描きました。
フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの跳ね橋》クレラー・ミュラー美術館, Public domain, via Wikimedia Commons.
複数の《アルルの跳ね橋》を比べてみると、構図や色づかいを少しずつ変えていることがわかります。1枚描いただけでは満足できなかったのか、または描くたびに新たな課題が見つかったのか…。ファン・ゴッホは同じモチーフに取り組みながら、より良い絵を模索しました。
構図や色づかいはもちろん、絵の中に描かれる人々にも違いが見られます。クレラー・ミュラー美術館版は馬車が橋を渡るところで、手前には洗濯する女性たちがいる賑やかそうな場面。ヴァルラフ・リヒャルツ美術館版では一転して、橋の上にいる日傘をさす女性がシルエットで描かれ、静かで穏やかな印象を醸し出しています。
フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの跳ね橋》ヴァルラフ・リヒャルツ美術館, Public domain, via Wikimedia Commons.
なお、感情に任せて絵を描いたとされ「炎の画家」とも呼ばれるファン・ゴッホですが、本作からは真逆の理性的な一面も読み取れます。肉眼では見えませんが、《アルルの跳ね橋》には鉛筆で薄く描かれた格子状の線があるからです。
これは風景を正確に描くために使われる技法のひとつで、あわせて格子状に紐を張った木枠も活用します。木枠を実際の風景にかざすと、紐とキャンバス上の線が対応するガイドラインになり、比率の正確な絵が描きやすくなります。ファン・ゴッホもこうした方法で、風景を正確に捉えようとしていた、と考えられています。
【まとめ】ファン・ゴッホの黄金期に描かれた《アルルの跳ね橋》

ファン・ゴッホがアルルに滞在したのは、わずか約15ヶ月間のことでした。その間に約200点の油彩画を制作し、水彩画やドローイングを含めると作品数は約300点にものぼります。
活発に制作に取り組み、《ひまわり》をはじめとする数々の名作も誕生。アルル時代はファン・ゴッホの黄金期とも言われています。
《アルルの跳ね橋》はアルル時代の最初の頃に描かれた作品群。希望に満ちた新生活に心躍っていたファン・ゴッホの気持ちを表すかのような、光と色彩にあふれた絵画です。
なお、2026年にはヴァルラフ=リヒャルツ美術館版が、2027〜2028年にはクレラー=ミュラー美術館版が来日予定。作品をより深く味わうために、この記事をヒントにしていただけたら幸いです。
《アルルの跳ね橋》が見られる展覧会情報
◎ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵
会期:2026年7月4日(土)~9月9日(水)
会場:あべのハルカス美術館(大阪)
公式サイト:ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵
◎大ゴッホ展 アルルの跳ね橋
2027年2月6日(土) - 5月30日(日):神戸市立博物館
2027年6月19日(土) - 9月26日(日):福島県立美術館
2027年10月 - 2028年1月:上野の森美術館
公式サイト:大ゴッホ展 アルルの跳ね橋
