ふと思い出した、子どもの頃の記憶
ここでさらに思い出したことが。先述したとおり私の生活空間は祖母が暮らしていたスペース。幼いころ、おばあちゃん子だった私はよく祖母の部屋で寝泊まりしていましたが、朝目覚めてお手洗いにたってみると「流れていない」ということが時折ありました。
小学校低学年くらいだった私は「おばあちゃんなんで流さないの? 流しておいたよ!」なんて文句に近いようなことを言ってしまいましたが……これ、自分が夜お手洗いに頻繁に立つようになってよーくわかる。祖母は同居の娘夫婦一家に遠慮して、起こさないようにと夜中お手洗いを流さないでいたんだなということが。
例え娘夫婦とはいえ、祖母もなにかと遠慮することがあったのでしょう。夜中自分がお手洗いにたつことで上の階の人間が起きてしまわないようにという配慮をしてくれていたのではないでしょうか。そしておそらく祖母も夜間によくお手洗いに立っていたのではないでしょうか。
それなのに、当時小学生の私はそんなことにまったく思いもよらず、むしろ「なんで流さないの!?」なんて無駄に追及するようなことを言ってしまって。
今なら、大人になった今ならよくわかる、祖母の体のこと、遠慮のこと。今になって謝りたい。デリカシーのないこと言ってごめんね、と。
幼い私にそんなふうに言われた祖母は、言い返すでもなく、ただ黙っていたのが印象的でした。本当にかわいそうなことしたな。
みんな何かを我慢して、社会を回している
大人になると、自分の体が少しずつ変化をしていくのもわかるとともに、それまで見えていなかった人間関係の機微にも気づくようになります。みんな何かに遠慮したり、何かをぐっと我慢したりして社会を回しているんですよね。
そして目に見えないような小さな気遣いを積み重ねて、人と衝突しないようにうまくうまく生きているわけで。
ちなみに、年老いた父に、トイレを流すのを夜中我慢している旨をそれとなく伝えたところ、自分は睡眠が深いから全然聞こえてない、遠慮しないで流せ、とのことでした。
でも、これも、私に気を遣わせないための優しさなのかもしれない。結局大人ってみんながみんなにそれぞれの形で気をつかっているんですよね。
ちなみに私の頻尿は治る気配ゼロです。
<文/アンヌ遙香>
【アンヌ遙香】
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道札幌出身、在住。現在はフリーアナウンサーとしてSTV「どさんこWEEKEND」メインMCや、情報番組コメンテーターして活動中。北海道大学大学院博士後期課程在籍中。文筆家。ポッドキャスト『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。Instagram: @aromatherapyanne

