●認定の進め方はこれでいいのか
──どのような点に「不足」を感じましたか。
委員会が「カスハラにあたる」と結論づけたこと自体が誤りだとは思わない。ただ、手続き的な保障の面で危うさを感じる。
認定にあたっては、ガイドラインで示されている3要件、すなわち(1)要求内容の妥当性(2)要求を実現するための手段・態様(3)就業者の就業環境を害するおそれがあるかが参考とされる。
しかし、審議の過程で、ある委員から「やっぱ今思うと、カスタマーハラスメントの定義、結構ゆるいですよね」という発言があったように、事実認定が十分に精緻な議論を経てなされたとは感じられなかった。
たしかに音声の提出や当事者への聞き取りは実施されているが明確な録音・録画がないことを理由に警察では事件化してくれない、民事裁判では不法行為として認定されないというケースがよくある。
企業であれば、録画や録音がなくても、従業員へのヒアリングをもとにカスハラと判断して従業員を守る行動を取らなければならないことはある。しかし、強い権限を持つ自治体が、手続保障に不安を抱えたまま、企業と同じレベルの判断基準でカスハラ認定するのは危険だと思う。
●誰が守ってくれるのか?
──相談者は「せっかくできた条例」だと述べ、こうした行為がカスハラにあたることを周知してもらいたいとしつつ、行為者の氏名公表まで望んでいない姿勢が見えました。
委員会でも、行為者に連絡することで、相談者への報復が起きる可能性を懸念する声が上がり、市側は地元警察と連携していると説明している。
委員の一人からは「当事者同士の対応について見えてこない。この辺りを行政、委員会として踏み込むのかという整理はしておかないと、また悩むのではないか」との意見も上がった。
だとすれば、最初から警察に相談させるべきではないか、という疑問も出てくる。この点でも、制度の意義がやや見えにくいと感じる。
地方では、その地域で有名な「常習クレーマー」が存在することも少なくない。特定の相手に限らず、さまざまな場所で問題を起こしているケースもある。
今回の行為者は、委員会の聞き取りには出席せず、代わりに陳述書を持参して突然来庁し、市の職員(主事)に40分にわたって話をしたとされている。
警告を受けたことで、今回の相談者である配送業者に対するクレームは止まるかもしれないが、矛先を変えて、別の相手に向かう可能性は十分にある。
公務員に対するカスハラも大きな社会問題となっている。市役所としては、相談者だけでなく、職員をどう守るかという視点も念頭においてほしい。
一般職員が直接巻き込まれる可能性もある以上、人的・組織的なリソースに余裕のある自治体でなければ、この制度を導入するのは難しいのではないかと思う。
また、カスハラをやる人には「言いやすい相手を選ぶ」という特徴がある。市の警告に従わずに同じ相手にカスハラ行為を繰り返すような場合は少なく、「氏名公表」にまで至る事案はほとんど想定できないのではないか。それよりも一度カスハラと認定されても懲りずに次々と言いやすい相手に対象を変えるケースが多いだろう。

