3. 親が落ち着くことで、子どもの集中を守る
受験本番が近づくと、親はどうしても緊張します。
それは自然なことではあるのですが、やはり子どもへの影響は避けられません。
親が不安だと、子どもの脳は「緊急事態モード」に入りやすくなり、「考えるモード」が働かなくなるのです。
もう少し詳しく説明すると、人の脳は「安全だ」と感じているときにだけ、落ち着いて考えることができます。
逆に、周囲が不安そうだったり、空気が張りつめていると、脳は「今は警戒したほうがいい状況だ」と判断します。
すると、
・視野が狭くなる
・注意が散りやすくなる
・細かい条件を保持できなくなる
といった状態になります。
つまり、脳が「考えてるヒマはない! とにかく逃げろ! あるいは敵と戦え!」というモードになってしまうということなのです。
そうなったら、落ち着いて問題を解くための集中力が出にくいというのはお分かりいただけますよね。
これは精神論ではなく、生理的な脳の働きの問題なのです。
適度な緊張はパフォーマンスを高めますが、過度な緊張ははっきりとパフォーマンスを下げます。
そして、親の不安は、子どもの緊張を「ちょうどいいレベル」から「強すぎるレベル」に押し上げる力として働いてしまうのです。
では、どうすれば子どもに緊張を与えずに、「考えるモード」にさせてあげられるのでしょうか。
ここで多くの方がすぐに思いつく方法が、「大丈夫だよ」といった声かけではないでしょうか。
しかし、実はこうした表面的な言葉には、あまり効果がありません。
なぜなら、子どもは親の言葉よりも、表情・声のトーン・動きから先に情報を受け取るからです。
つまり、たとえ口では「大丈夫だよ」と言っていたとしても、
・表情が硬い
・声が上ずっている
・動きが落ち着かない
といったサインがあると、子どもは無意識に「本当は大丈夫じゃないんだ」と感じ取ってしまいます。
だから、親御さん自身が本当の意味で「大丈夫」と確信し、気持ちが落ち着いた状態にすることが必要です。
では、どうすれば親御さん自身が安心できるのでしょうか。
その方法はすでに1・2で書いた通りです。
親御さん自身も、「大丈夫」と自分に言い聞かせて不安を抑えようとしたりするのではなく、「不安になるのは当然」「それだけ受験が、そして我が子が大切なんだ」とありのまま受け入れましょう。
その方が不安な気持ちが早く通り過ぎます。
そして、塾の送り迎え、お弁当作り、過去問や教材の整理の手伝い、出願の準備など、自分のやるべきことに意識を集中しましょう。
また、これまでのお子さんとご自身の積み重ねてきた頑張りを思い返して確認しましょう。
きっと親子で大きな成長があったはずです。
その頑張りと、それによって得られた成長には、受験の合否以上の大きな価値があります。
受験の合否によって進学先が変わっても、子どもの人生が成功するかどうかや幸せになるかどうかにはほとんど影響が無いということが、教育経済学の研究で示唆されています。
ですが、受験に向けて何年も努力を積み重ねたことは、確実にお子さんの人生の成功を後押しします。
そのことをあらためて確認し、お子さんを信頼することが、受験への不安を手放すうえでもっとも効果的なことだと思います。
受験前にぜひ一度、時間を取って、どんな成長があったかを話し合ってみてください。
■終わりに|親ができる最高のサポートは「信じて任せること」
受験本番が近づくほど、親はどうしても
「何かしてあげなければ」
「この関わりで合っているのだろうか」
と不安になります。
それは、子どもを大切に思っているからこその自然な気持ちです。
ただ、ここまで見てきたように、受験本番で子どもが力を出し切れるかどうかは、特別な声かけや励ましで決まるものではありません。
・不安を消そうとせず、静かに受け止めること
・「今やること」に集中できる状態を守ること
・親が落ち着いていること
この3つは、どれも子どもの力を引き出すために「何かを足す」関わりではなく、「余計なものを足さない」関わりです。
言い換えれば、親がすべきことの多くは「教えること」でも「導くこと」でもなく、信じて任せることなのだと思います。
本番は、親が代わってあげることも、一緒に戦ってあげることもできない時間です。
だからこそ、子どもが自分の力で考え、「今この瞬間の一問」に集中できるよう、親はその環境を静かに守りましょう。
それが、受験本番における最もレベルの高いサポートです。
これまで積み重ねてきた時間は、決して無駄にはなりません。
どうか、お子さんのこれまでの頑張りを信じ、そして、ご自身のサポートも信じて、本番を迎えましょう。
※中学受験ナビの連載『親子のノリノリ試行錯誤で、子供は伸びる』の記事を、マイナビ子育て編集部が再編集のうえで掲載しています。元の記事はコチラ。
(菊池洋匡)
この記事の執筆者菊池洋匡中学受験専門塾 伸学会代表。開成中学・高校・慶應義塾大学法学部法律学科を卒業。算数オリンピック銀メダリスト。著書に『小学生の勉強は習慣が9割 自分から机に向かえる子になる科学的に正しいメソッド』(SBクリエイティブ)『「やる気」を科学的に分析してわかった 小学生の子が勉強にハマる方法』(秦一生氏との共著、実務教育出版)『「記憶」を科学的に分析してわかった 小学生の子の成績に最短で直結する勉強法』(実務教育出版)。伸学会HP:https://www.singakukai.com/→記事一覧へ
