SNSを通じた教師と不登校の生徒の関係を描く本作で、親元を離れられない“子ども部屋おばさん”の中学校教師・朝井えりこ役に挑む鈴木さんに、作品への思いや役柄との共通点、さらに今後の目標などを聞かせてもらった。

■「今だからこそ体当たりしてみたい」社会派ヒューマン作品への挑戦
――この作品への出演が決まったときのお気持ちと、えりことの共通点を教えてください。
【鈴木愛理】俳優としてのキャリアの中で、社会問題を正面から扱うヒューマン作品に携わるのは、今回が初めてでした。30代を迎え、タイミングとしても「今だからこそ体当たりしてみたい」と思えたことが、出演を決めた一番の理由です。
えりこは、イメージでは私と結びつかない部分もあるかもしれませんが、私自身は「丸写しなんじゃないか」と思うほど共通点が多いと感じました。人生の中でいろいろな経験をして精神的に弱くなってしまった部分があって、それでも前を向こうとする。えりこと私は、ポジティブとネガティブのバランス感覚がとても近いんです。
唯一の大きな違いは、中学校教師という役柄です。先生役が初めてだったので、実際の中学校教師の働き方や現状を調べるきっかけにもなり、自分の視野が広がったと感じています。

――具体的にどんなところが「ポジティブとネガティブのバランス感覚がとても近い」と感じたのでしょうか?
【鈴木愛理】私はわりとたくましく生きているタイプだと自覚しているんです。でも、どんなにたくましく強く生きている人でも、一度心に傷を負ってできたかさぶたが、そのあと完全に治っているわけではないんですよね。
きっと、心にかさぶたがたくさんできることで人間は成長していくと思うのですが、えりこが“心のかさぶた”と向き合って成長していく過程には、特に共感しました。傷ついた自分を認めてあげる感覚が、自分に近いと感じましたね。

――台本を読んだ印象はいかがでしたか?
【鈴木愛理】台本をはじめて読んだときは、自然と涙が出ていました。平成と令和、それぞれの時代を生きる親子の視点から、子どもたちが直面する生きづらさや、学校との距離感を描きながら、家族愛の形も全く違う。その複雑さが重なり合うことで、とても重いテーマでありながら、どこか温かさの残る物語だと感じました。
母娘愛が描かれる場面もあり、読んだあとに真っ先に浮かんだのは、自分の母に対する温かい気持ちでした。
――ご自身のお母さんに対して、どんな気持ちがあふれたのでしょうか?
【鈴木愛理】「ありがとう」という感謝の気持ちです。31歳にもなりながら、母とはいまだに喧嘩をすることもあるんです(苦笑)。でも、それくらい仲がいいんですよね。
だからこそ、きちんと「ありがとう」と母に言う機会は照れくさくてあまりなくて…。あらためて「ありがとう」と伝えられたのは、成人式のときだけなんです。それから10年以上経って、今いきなり感謝したら「雪が降る」とか言われそうですね(笑)。
直接感謝を伝えるのはやっぱり恥ずかしい部分もあるので、母にこの作品を観てほしいなと思っています。私は娘の立場で演じましたが、きっと、娘を持つ母親の立場だったら、また違った視点で見られる作品になっていると思います。

■大人になった今振り返る「いい子でいること」
――えりこを演じるうえで心がけたことはありますか?
【鈴木愛理】できるだけ普通でいることです。撮影期間が短かったので、役に集中するために普段のルーティンや、自分を整える行為を意識的に手放しました。今日の自分がボロボロなら、それも正解。ありのまま生きることを大切にしていました。
――作品の冒頭で、「いい子でいたかった」といった印象的なセリフが語られます。鈴木さん自身は、どんな学生時代を過ごしていましたか?
【鈴木愛理】私もまさに、えりこと同じ優等生タイプでした。自分の中で“いい子でいること”が正解で、その枠から外れるのが怖かったんです。アイドルグループにいたときも、安心できる場所に収まってしまう癖がありました。
大人になってからやっと、目の前にあるものとぶつかりながらも、少しずついい子の殻を破れてきた気がします。作中にある「いい子が、いい子をやめられる友達を作ってほしい」というセリフは、私自身の経験とも重なりますし、とても大切なメッセージだと思っています。実際に、私は大人になってからそういう友人に出会えたことが、本当に幸せなことだなと感じているんです。

――幼少期はいい子でいるために、我慢していたことも多かったのでしょうか?
【鈴木愛理】自分では我慢していたことにも気づいてなかったですね。当時は自分の中では正解でしたし、嫌だと感じることもなかったです。
でも、時間が経って振り返ってみると、もっと視野を広げるべきだったし、そこまで正解を追求しなくてもいいんじゃないかなと思えますね。
――ちなみに、えりこにとっては漫画が心のオアシスですが、鈴木さんにとってのオアシスはなんですか?
【鈴木愛理】私は小さな幸せを感じることで、嫌なことも全部リセットできるタイプなんです。特に感じる幸せは…やっぱり食事ですかね。自炊も好きですし、おいしいものをご褒美として食べに行って、仲間と一緒に「おいしいね」って言い合える時間も大好きなんです。
食に貪欲なうちは健康だっていう持論があって、高熱を出した次の日でも、とんかつを食べに行ったりしちゃうタイプなんですよ(笑)。身体的にも精神的にも不調は食で治すタイプなので、おいしいものが私のオアシスですね。

■「ただいまって言える場所」があることの尊さ
――タイトルの「ただいまって言える場所」については、どう受け止めましたか?また、鈴木さんにとっての「ただいまって言える場所」はどこですか?
【鈴木愛理】この作品が持つメッセージの中でも、特に温かい部分に光を当てたタイトルだと感じました。「ただいま」と言える場所は、人によって違いますよね。家族や学校、友人など帰れる場所があること自体が、どれだけすてきなことかをあらためて考えさせられました。
私自身は、ありがたいことに「ただいま」と思える場所が多い人生だと思っています。家族や友人はもちろん、ファンの皆さんの前に立つ場所も、私にとっては「ただいま」と言える空間。愛でつながっている関係が多いからこそ、私も「おかえり」と言える場所を、皆さんに作っていける人間でありたいなと思っています。

――作中のえりこは、不登校の生徒・千花とSNSを通じて本音を語り合う関係になっていきます。鈴木さんがSNSで救われたり、ポジティブな感情になったりした経験はありますか?
【鈴木愛理】小学生のときに芸能界に入りましたし、世代的なこともあるのか、以前はSNSをあまり信頼していなかったんです。SNS上で誰かと知り合うことももちろんないですし。
けれど、コロナ禍でお手紙さえも受け取れない時期に、SNSのダイレクトメッセージでファンの皆さんから温かい言葉をいただけたことは心強かったですね。元気をもらえますし、ネガティブなメッセージだとしても、私がこの人の苦しみを受け止めようと思っていました。
ひどいことを言われたとしても、それだけ私を見てくれているんだなと受け止めて、「ありがとな!」って思っているんです。大人になって、さまざまなことをポジティブに考えることができるようになったので、SNSもありがたい存在になりましたね。

――俳優だけでなく、歌手やモデルなど、マルチに活躍されていますが、今の鈴木さんにとって、表現することとは何でしょうか?
【鈴木愛理】自分らしく生きるためのツールですね。自身をアウトプットして表現しないと、心が息をしなくなってしまうタイプなんだと思います。歌もお芝居も、使うギアは違いますが、すべて自分の中をアウトプットする手段です。表現の引き出しを増やしながら生きることが、私らしさだと感じています。
「表現することは生きること」と言うと大げさかもしれませんが、それくらい自分にとっては自然で、大切なものですね。
――今回は社会派作品に初挑戦しましたが、これからチャレンジしてみたいジャンルはありますか?
【鈴木愛理】これまでは明るくキラキラした作品や役柄が多かったですが、今作で自分の可能性が広がったことで、ヒューマン作品にもっと挑戦してみたいと思いました。テーマの重い作品や、暗めの役柄にも機会があればチャレンジしたいですね。

撮影=大塚秀美
取材・文=イワイユウ
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