20年ほど前のある秋の日、Tさん(年齢不詳・女性)は一人で山道を下っていた。
そこに通りかかった車の中から声をかけてきた人が居て......。

<Tさんからのおたより>
もう20年ほど前だと思います。ある秋の日のことです。
当時横浜に住んでいた私は、その時付き合っていた彼が新宿で仕事だと言うので朝からついて行き、そこから彼の仕事が終わるまで日光に紅葉狩りに行く事にしました。
行き帰り指定席の日光行きの電車が出ていたので行くのは簡単でしたが、日光でバスに乗ったらいろは坂が思った以上に渋滞していたのです。
華厳の滝まで行く予定でしたが、このままバスに乗って行って、またバスに乗って駅に戻るのでは帰りの電車に間に合わないかもしれないという危機感で、途中下車。
紅葉だけならバスの中から見た景色を楽しんだから、という気持ちで下山することにしたのですが......。
係員に止められるのも聞かずに...
ところが、駅へ戻るバス停には長蛇の列。
係員の方に聞くと「山頂の方まで行って、そこから折り返して帰ってくるから、時間が読めない」とのことでした。
確かに、さっきまで乗ってきたバスも、本来なら1時間もかからない距離を2時間半とかかけて上ってきた訳なので、時間が読めなくても仕方ありません。
けれど、帰りの電車の時間まで3時間を切っています。
長蛇の列は、バス3~4台分にはなるとのこと。
そんなに長時間待っていられないと思った私は、係員に止められるのも聞かず、「徒歩で下山する!」と下山していくことにしました。

......が、すぐ後悔することになりました。
山道をくねくねと下山するのですが、看板表示には「10km」と書かれているのです。
どちらにしても2~3時間では下れそうにない道のりに愕然。それでも下山を始めてしまったので、下りるしか選択肢はありません。
「好きで歩いているの?」
私はしばらく歩きました。
すると、1人の女性が車の窓から声をかけてくれたのです。
「貴方は、好きで歩いているの? 仕方なく歩いているの?」

私が「仕方なくです」と答えると、「良かったら乗っていく?」と申し出てくれました。
車に乗っていたのはご夫婦で、群馬からいらしていたそうです。年金生活になり、ゆっくり車で旅をしているとのことでした。
道は渋滞してはいましたが歩くよりはずっと早く、日光駅まで送って頂きました。
降りる前に、何かお礼を送りたいから住所を教えて欲しいと伝えると、「旅は道連れだから」とお礼は断られました。
