高齢になるにつれて、これまで自分でできていた生活動作が少しずつ難しくなり、介護の支援が必要になる方が増えていきます。要介護状態に至る背景には、認知症や脳血管疾患、骨折や転倒、年齢に伴う衰えなど、いくつかの要因が重なっていることが少なくありません。一方で、日頃の生活習慣や環境を整えることで、要介護の状態を遠ざけられる可能性もあります。また、実際に介護が必要になった場合には、介護保険制度をどのように利用すればよいのか、費用はどの程度かかるのか、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、要介護になる主な原因から、予防の考え方と具体的な対策、介護が必要になった際の初期対応、介護保険制度の仕組みや費用の目安を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科
介護が必要になる原因

介護が必要になるきっかけは一つではなく、複数の要因が重なり合って生じることが少なくありません。病気やけがだけでなく、年齢とともに進む身体や認知機能の変化、生活環境の影響も関係します。ここでは、要支援・要介護に至る主な原因と、男女でみられやすい傾向の違いについて解説します。
要支援・要介護になる主な原因
65歳以上の要介護者等について、介護が必要になった主な原因を見ると、認知症が18.1%を占めます。続いて、脳血管疾患(脳卒中)が15.0%、高齢による衰弱が13.3%、骨折・転倒が13.0%となっており、これらが介護につながる代表的な背景です。
認知症は、記憶や判断の低下によって生活の管理が難しくなり、見守りや支援が必要になります。脳血管疾患では、手足の動かしにくさや言葉の不自由さが残る場合があり、移動や日常動作に介助が求められます。
また、骨折や転倒は、それまで自立していた方でも生活機能が低下するきっかけになりやすく、活動量の減少や筋力低下につながります。さらに、高齢による衰弱は、筋力や持久力の低下が徐々に進み、外出や家事が負担となることで、介護の支援が必要になる背景の一つです。これらの原因は単独で起こるだけでなく、重なり合いながら生活の自立を難しくします。
参照:『高齢社会白書 令和3年版第1章 第2節』(内閣府)
男女で異なる原因の特徴
介護が必要になる原因には、男女で傾向の違いがあります。男性では、脳血管疾患(脳卒中)が24.5%を占め、主な原因の一つです。続いて、認知症が14.4%を占めています。脳血管疾患では、発症後に手足の動かしにくさや言葉の不自由さが残ることがあり、日常生活動作に支援を要する状態へ移行する場合があります。このように、男性では病気の発症をきっかけとして介護が必要になる流れが目立ちます。
一方、女性では、認知症が19.9%と大きな割合を占めています。次いで、骨折・転倒が16.5%、高齢による衰弱が14.3%です。女性は平均寿命が長く、年齢を重ねる過程で認知機能や身体機能の変化が積み重なりやすい傾向があります。また、骨密度の低下により、転倒をきっかけとした骨折が生活機能の低下につながり、その後の介護の支援が必要になる背景となることもあります。
このように、男性では脳血管疾患を中心とした病気が主な要因となりやすく、女性では認知症や骨折・転倒、高齢による衰えが重なって介護が必要になる傾向があります。男女それぞれの特徴を踏まえた予防や備えを考えることが、将来の生活を見据えるうえで重要です。
参照:『高齢社会白書 令和3年版第1章 第2節』(内閣府)
要介護を防ぐ具体的な予防法と対策

要介護の状態を防ぐためには、原因ごとに対策の方向性を整理し、日常生活のなかで継続できる行動を積み重ねていくことが重要です。ここでは、認知症、脳血管疾患、骨折・転倒、高齢による衰弱という代表的な背景に対して、実生活で取り入れやすい予防と対策を解説します。
認知症予防と対策
認知症の予防は、脳への刺激を保つ生活が基本です。人との会話や役割のある活動を続けることで、考える機会や判断の場面を日常に取り入れられます。生活リズムを整え、起床や就寝の時間を一定に保つことも、認知機能を支えます。食事では、主食・主菜・副菜をそろえ、栄養の偏りを避けることがポイントです。加えて、無理のない範囲で歩行などの身体活動を継続することが、心身の活性化に役立ちます。
脳血管疾患予防と対策
脳血管疾患の予防は、血管への負担を減らす生活習慣が中心です。塩分を控えめにし、野菜や魚を取り入れた食事を意識することで、血圧や血管の状態を整えやすくなります。日常生活のなかで歩く時間を確保し、長時間座り続けない工夫も有効です。喫煙や過度な飲酒を避け、定期的な体調確認を行うことで、変化に早く気付ける環境づくりにつながります。
骨折・転倒予防と対策
骨折や転倒を防ぐためには、筋力とバランス能力の維持が欠かせません。立ち座り動作や下肢を使う体操を日課に取り入れることで、足腰の安定を保ちやすくなります。住まいの環境調整も重要で、段差の解消や滑りやすい場所の見直し、手すりの活用などが転倒リスクの軽減に役立ちます。視力や足元の状態を定期的に確認し、身体に合った履物を選ぶことも、日常動作の安全性を高めます。
高齢による衰弱予防と対策
高齢による衰弱を防ぐには、栄養、運動、社会とのつながりを意識した生活が基本です。食事では、エネルギー量だけでなく、たんぱく質を意識して取り、筋肉量の維持を支えます。外出や人との交流を続けることで、活動量や生活への意欲を保ちやすくなります。

