■「言わないで」ってお願いしたのに、笑いものにするなんてひどい…。



東京から家族の友人が遊びにきた。「東京」というところは知っていたけれど、小さいころの南波さんにとっては、今住んでいるところから「海を渡らないと場所」と言う認識だった。どこにあるのか自信がなく、母親に「誰にも言わないでね」と前置きをしてから、「東京って外国じゃないの?」と聞いた。


すると、母親は大笑いし、「ちょっと聞いて~!!」とみんなに言いふらした。「お母さん!言わないで!!やめて!」と懇願したのに「かわいいからいいじゃん」と言って、間違いをみんなで笑った。南波さんは初めて会う人の前で「ひどい、確認のつもりで聞いたのに、笑わなくてもいいじゃん…笑うほど変だったのかな」と泣いた。そんな幼少期の思い出が今も記憶から消えないでいる。

親が悪気なく子どものプライドを傷つけてしまうエピソード。本作を描くうえで南波さんが心がけたのは、子ども側の目線と大人側の目線。「子ども側の目線は、当時感じた通りの絶望感をそのまま描きました。大人の絶対感、子どもの無力感。そういったことを心がけました。親側の目線では、自分が親になってどんな風に考えるようになったのか?ということを、文章を多めにして描きました。子どもの時は直感的に嫌だったけど、親になってからは『どうして子どもに対して笑うのか?』『子どもは笑われるとどうして嫌なのか?』を理論的に考えている、という構成にしています。」

母親には、子どもの無知な発言が微笑ましく映ったのだろう。しかし、知らない人の前で間違いを暴露され、恥ずかしかった。南波さんは、「『自分が幼いころ嫌だったことを子どもにはしたくないな』と妊娠している時から考えていたのですが、息子を出産して育児漫画を描き始めてしばらくしたときに、『子どもにはしたくないこと』を忘れないためにも漫画に書き残してみてもいいかもしれないと考えました」と制作の経緯を話す。

本作を読んで子どものころの記憶が触発された人も多く、「私も親にされたことがある」「親やらかしがちなやつ」「わかる、絶対笑わないようにしてる」などの声が届いた。漫画を通して、「子どもとの約束は守る。一生懸命頑張ってることは笑わない。」この2点を伝えたいと南波さんは言う。

自分が親になっても、「やっぱりあの時の出来事はすごい嫌だったなあ...」と描きながらに感じたという、南波さん。「親になって、より一層『子どもがかわいくて笑っちゃう』という気持ちは理解できましたが、できる限り子どもの心を最優先に考えて動けるようになりたいし、できれば一緒に頑張ったり、応援したりする存在になりたいなと考えています。」

南波さんはその他、「広告漫画やビジネス書籍の挿絵や漫画を依頼いただき、制作しています。SNSでは、おもに育児漫画やエッセイ漫画を描いてます。祖父母が被爆者なので、長崎原爆の日に「原爆について」の投稿を行うこともあります。最近は、自身のアトピー性皮膚炎の体験を元に描いた創作漫画『エセ科学で育ちました。』を個人的に制作しています。」と幅広い活動を行っている。
取材協力:南波くわしく(@kwsk28)
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