「白内障手術を受けると、視力が改善するだけでなく、認知機能にも良い影響がある」という研究結果が注目を集めています。視覚の回復が脳の働きに影響を与えるということなのでしょうか? そこで白内障手術と認知機能について調べた研究結果について、川口前川眼科クリニック蕨院の林 雄介先生に解説してもらいました。

監修医師:
林 雄介(川口前川眼科クリニック蕨院)
順天堂大学医学部卒業後、順天堂大学医学部眼科学講座に入局し、順天堂大学医学部附属練馬病院や順天堂大学医学部附属静岡病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院において研鑽を積んだのち、2022年より順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科・緑内障白内障 グループ長となる。2023年9月、川口前川に川口前川眼科クリニック蕨院を開院、院長となる。日本眼科学会専門医、眼科PDT研究会認定医、水晶体嚢拡張リング(CTR)使用認定医。
編集部
白内障手術をすると、認知機能が改善するというのは本当ですか?
林先生
「改善することもある」と言われています。もともと「白内障の手術を受けた人は、受けていない人に比べて認知症が発症しにくくなる」といった研究データはあったのですが、最近の研究で、実際に手術後に認知機能が向上したケースが報告されています。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
林先生
例えば、順天堂東京江東高齢者医療センター眼科の研究グループが実施した研究があります。白内障手術を受けた75歳以上の認知症および軽度認知症患者88人に、白内障の手術前と手術後3カ月の時点で、「MMSE」という、認知機能レベルを調べる検査をしたところ、手術前に軽度の認知障害があったグループのMMSEスコアが有意に改善したと報告されています。
編集部
それはすごいですね。
林先生
そうですね。しかしこれはあくまでも「軽度の認知機能障害の患者さん」についての結果です。すでに「認知症」と診断されているグループでは、白内障手術の前後でMMSEスコアに統計学的な有意差は見られなかったとのことなので注意が必要です。逆にいうと、「認知症になる前の段階で白内障手術を受けるほうが、認知機能の改善が期待できる」と言えるかもしれません。
編集部
どうして、白内障の手術をすると認知機能が改善するのでしょうか?
林先生
まだ仮説の段階ではありますが、人間の五感による知覚(情報判断)の割合は80%以上が視覚によると言われていて、見え方が改善することで、同じものを見てもより多くの刺激を受けるようになったり、見やすくなることで、今までより積極的にものを見ようとするようになり、刺激が増えたりすることも一因でないかと言われています。また、見やすくなることで、見ることに伴う疲労が改善され、より集中力や注意力が維持しやすくなるといったことも期待できます。実際、今まで手術治療された方でも、ご家族などから「見えないときは一日中ボーっと過ごしていることが多かったのに、術後は積極的にテレビや新聞を見るようになり、より話をするようになった」と聞くこともあります。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージをお願いします。
林先生
白内障は日々少しずつ進行する疾患のため病状を自覚しにくい病気です。健康診断や眼科受診をすることで白内障をはじめ緑内障等の眼科疾患の早期発見につながることもあります。40歳を過ぎたら眼科検診を受けて目の健康維持につとめましょう。
※この記事はMedical DOCにて<白内障手術によって「認知機能」が改善するってホント? 眼科医に聞いてみた>と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。

