介護が必要になる背景にはさまざまな病気がありますが、介護保険制度は、加齢による変化だけでなく、40〜64歳の方が介護を受けられる条件として16の特定疾病が定められています。これらの病気は、日常生活の動作に影響が出やすく、進行とともに身体の支えや生活の見守りが欠かせない状況になることがあります。特定疾病にあてはまる場合は、年齢に関わらず介護保険の申請が可能であり、福祉用具の利用、訪問支援、通所サービスなど、生活を整えるための介護サービスを組み合わせることができます。病気と生活の変化は密接に関わるため、制度の仕組みと利用できる支援を理解しておくことで、負担を抱え込みすぎずに必要な支援へつなげやすくなります。
この記事では、介護保険で定められた16の特定疾病の特徴と、利用できる介護サービスの種類を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科
介護保険で定められた16の特定疾病

ここでは、介護保険制度で定められている16の特定疾病について、その特徴や日常生活に影響しやすい点を解説します。これらの疾病は、40〜64歳の方でも介護保険を利用できる対象となるもので、進行に伴って日常生活の動作が難しくなる特徴があります。病気ごとに症状は異なりますが、移動、清潔保持、食事、排泄などの身の回りの動作に支えが必要になる場面が増えることが共通しています。病気の特性を理解することで、ご本人やご家族が適切な支援を検討しやすくなります。
がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態にあるもの)
がんは、細胞が異常に増えることで臓器の機能を損なう病気です。進行すると体力の低下や痛み、食欲の低下が重なり、全身にわたるだるさが続くことがあります。がんの種類や進行度によって症状は異なりますが、体重減少、吐き気、疲労感、呼吸のしづらさなど、生活の基本動作に影響する症状が現れやすくなります。病状が進んだ状態では、身体を動かす力が弱まり、日常生活に支えが必要になることがあります。
関節リウマチ
関節リウマチは、免疫の異常によって関節に炎症が起こり、腫れや痛み、こわばりが続く病気です。特に朝のこわばりが特徴で、手指の細かな動きが難しくなることがあります。進行すると関節の変形や筋力低下がみられ、歩行の不安定さや疲れやすさが現れやすくなります。
筋萎縮性側索硬化症
ALSは、筋肉を動かす神経が徐々に弱っていく病気で、全身の筋力低下が段階的に進みます。初期には手足の動かしにくさや筋肉のぴくつきがみられ、進行すると歩行や食事、会話、呼吸の力が低下します。感覚は保たれる一方で、身体を動かせない状態が進むことが特徴です。症状が少しずつ広がるため、生活能力が時間とともに変化します。
後縦靱帯骨化症
脊椎の後ろ側にある靱帯が骨のように硬くなる病気で、脊髄が圧迫されることで症状が現れます。手足のしびれ、歩行時のふらつき、細かな動作の難しさが典型的です。進行すると脚が重くなり、歩行距離が短くなることが多く、転倒しやすくなることがあります。症状はゆっくり悪化することが多く、初期は気付かれにくい場合もあります。
骨折を伴う骨粗鬆症
骨粗鬆症は骨が弱くなる病気で、軽い衝撃でも骨折しやすくなります。特に背骨の圧迫骨折が多く、背中の痛みや姿勢の変化、身長の低下がみられます。骨折後は立ち上がりや歩行が難しくなり、動作のたびに痛みが生じることがあります。進行すると日常生活全般へ影響が生じます。
初老期の認知症
初老期の認知症は、アルツハイマー型認知症や血管性認知症、レビー小体型認知症などが65歳未満で発症する状態を指します。アルツハイマー型認知症は、物忘れが強くなり、時間の感覚が乱れたり、整理整頓が難しくなったりします。進行すると、服薬管理や日常の行動がうまくできなくなります。血管性認知症は、物忘れに加えて歩行のぎこちなさや反射の変化などの神経症状がみられることが特徴です。レビー小体型認知症は、実際に見えているように感じる幻視が現れやすく、動きにくさや注意力の変動を伴うことがあります。
進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病【パーキンソン病関連疾患】
いずれも神経の変性によって身体の動かしにくさが進む病気です。姿勢の保持が難しくなり、歩行時に前のめりになりやすい、転倒しやすいといった特徴があります。手足の動きがぎこちなくなり、細かな作業ができなくなることがあります。病気によっては、表情が乏しくなる、まぶたが開きにくくなる、声が出しづらいなどの症状もみられます。
脊髄小脳変性症
小脳や脊髄の働きが弱くなる病気で、歩行のふらつきが特徴です。まっすぐ歩けない、身体のバランスがとれない、言葉がはっきりしないなどの症状がみられます。進行すると立位が不安定になり、食事や更衣などの動作にも影響が出ます。手足の震えとは異なり、動作そのものが協調しづらくなることが特徴です。
脊柱管狭窄症
腰の神経が圧迫されることで、歩行時の痛みやしびれが続く病気です。歩くと症状が強まり、休むと落ち着くという特徴があり、長距離歩行が難しくなります。立ち上がりや方向転換の際にふらつきが出ることもあり、活動の幅が狭まりやすくなります。
早老症
若年でも加齢に似た身体の変化が現れる病気で、筋力低下、皮膚の変化、疲労感が特徴です。体力が落ちやすく、動作の持続が難しくなることがあります。外見や身体機能の変化が早い時期から現れます。
多系統萎縮症
神経の変性が進む病気で、自律神経の不調や歩行障害、ふらつきが特徴です。立ちくらみや排泄の調整が難しい、歩行時のふらつきなどさまざまな症状が同時に現れることがあります。進行に伴い、姿勢保持や移動が難しくなる方もいます。
糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
糖尿病が続くことで神経や腎臓、眼の機能が低下する病気です。しびれや痛み、感覚の鈍さ、視力低下などが現れ、日常の動作に影響します。腎症が進むと身体のむくみや疲れやすさが目立ち、網膜症は見えにくさが生活に影響します。
脳血管疾患
脳梗塞や脳出血による後遺症で、麻痺や言葉の出にくさ、飲み込みにくさなどが残る病気です。片側の手足が動きにくくなり、歩行や立ち上がりが難しくなることがあります。注意力や判断力の変化がみられることもあります。
閉塞性動脈硬化症
足の血流が低下する病気で、歩くと足に痛みが出て、休むと軽くなるという特徴があります。進行すると少しの距離でも痛みが生じ、歩行速度が低下します。皮膚の冷たさや色の変化がみられる方もいます。
慢性閉塞性肺疾患
肺の働きが低下し、呼吸のしづらさや咳、痰が続く病気です。少しの動作でも息切れしやすく、疲れやすさが増します。外出が難しくなる方も多く、活動量が低下しやすいことが特徴です。
両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
関節の軟骨がすり減ることで痛みや可動域の低下が生じる病気です。両側に変形がある場合は、歩行時の不安定さが特に目立ちます。階段の昇降や立ち座りが大きな負担となり、活動量が低下しやすくなります。
特定疾病が原因で要介護認定を受けた場合に利用できるサービス

ここでは、特定疾病によって要介護認定を受けた際に利用できる主な介護サービスを解説します。病気の進行や生活環境の変化に応じて、訪問支援、通所によるリハビリや入浴支援、福祉用具の活用などを組み合わせることで、無理のない暮らしを続けやすくなります。サービスは一律ではなく、ご本人の状態に合わせて選べる仕組みであり、生活の負担を軽くしながら安全な環境を保つことが目的です。
福祉用具の貸与・設置
歩行の安定や立ち座りの補助を目的に、手すりや歩行器、ベッドなどの福祉用具を利用できます。生活動作が不安定になりやすい疾病は、身体の負担を減らし、転倒を防ぐための環境づくりが欠かせません。福祉用具専門相談員が状態に合った用具を提案することで、無理のない生活動作を保ちやすくなります。
訪問サービス
特定疾病は、移動が難しくなる方が多く自宅での生活を維持するために訪問サービスが役立ちます。訪問介護は、清潔保持や排泄、食事の補助などが行われ、訪問看護は病状管理や服薬の確認が可能です。必要に応じて訪問リハビリを利用することで、日常生活の動作を続ける力を維持しやすくなります。
通所サービス
通所サービスは、入浴やリハビリ、機能訓練、生活の相談などを受けられます。身体を動かす機会が減りやすい疾病の方にとって、適度な運動や刺激のある時間は生活リズムを整えることに役立ちます。また、家族が安心して外出できる時間を確保する役割もあります。
宿泊サービス
短期間の宿泊が可能なサービスを利用することで、自宅での介護が続けやすくなります。急な体調変化や家族の都合で介護が難しい場合に活用しやすく、食事や排泄、入浴などの支援を受けながら過ごせます。環境が変わることで生活リズムを立て直しやすい方もいます。
施設での生活
特定疾病が進行し、自宅での生活が難しくなった場合は、介護老人福祉施設などの入所を検討できます。日常生活全般の介助を受けられ、医療や看護との連携により、病状が変化しても安定した支援が継続できます。生活の不安が減ることで、ご本人の負担が和らぎ、家族の介護負担も軽くなります。

