●「近所に野菜を取りに」行くことは「正当な理由」になるか
では、「知り合いの家に野菜を取りに行く途中」という目的は、正当な理由にあたるのでしょうか。
結論からいえば、「近所に野菜を取りに」行くという目的だけでは、「正当な理由」と認められない可能性があります。
銃刀法22条の「正当な理由」とは、社会通念上正当な理由が存する場合をいいます。判例では、特定の用途に供するため市販されている刃物をその用途に供する場合や、購入して自宅に持ち帰る場合などが正当な理由として認められています(水戸地判平成23年(2011年)7月29日)。
一方で、業務用の刃物を翌日の仕事のために用いる予定があるとしても、前日夜に酒屋やパチンコ店に立ち入る際に携帯することは正当な理由とはいえないとされています(大阪高判昭和37年(1962年)2月2日)。
これらの裁判例からすれば、今まさに「近所に野菜を取りに行く」ために包丁を持ち歩いていたのであれば、「正当な理由」あり、といえそうに思えてきます。なぜ本件の場合、「正当な理由」と認められない可能性が高いのでしょうか。
まず、「正当な理由」の判断では、目的だけでなく、刃物を携帯しているときの様子(どういう風に持っていたのか。たとえば柄に入っていたり、布で巻いていたりするのか)を総合的に判断する必要があるという点が重要です。
最高裁平成21年3月26日判決(軽犯罪法1条2号の事案)では、仕事や生活上の必要性があって、相当と認められる場合には、「正当な理由」があると考えられています。
これにあたるかどうかは、刃物の使いみちや、刃物の形・性能、持ち歩いた人の職業や日常生活との関係、持ち歩いた日時・場所、持ち歩いたときの様子、周囲の状況などの様々な客観的要素と、持ち歩いた動機、目的、認識等の主観的要素とを総合的に勘案して判断する、とされています。
学説上、この判断基準は銃刀法22条の「正当な理由」にも同じようにあてはまると考えられています。ただし、軽犯罪法の規制する器具と銃刀法22条の刃物では危険性に差があるため、刃物の場合には正当な理由が認められるのは限定的な状況に限られるという考え方もあります。
本件の場合、「野菜を取りに行く」という目的自体は、日常生活上の必要性があると認められる可能性があります。しかし、3本の包丁を、両手と口にくわえて持ち歩くことが、この目的のためにはたして必要だったのか、という点が問題となります。
また、3本の包丁が鞘(さや)などに入っていたり、刃が露出しないように布で巻かれたりしていたのか、それとも刃がむき出しの状態だったのかも問題となります。
仮に3本とも刃がむき出しの状態で持っていたのであれば、目的のために必要ではないと評価される可能性が高まります。
これらの点を総合的に考慮したうえで、社会通念上相当とは認められない可能性があります。
このように、「近所に野菜を取りに」行くという目的だけでは、「正当な理由」と認められない可能性があります。
●3本持ち歩くことの評価
容疑者は3本の包丁を同時に携帯していたとされています。複数の刃物を携帯した場合、複数の罪が成立するでしょうか。
たしかに、日時・場所が異なる場合には、複数の携帯行為はそれぞれ別の罪となる可能性があります。
しかし、本件では同時に3本を携帯しているため、1つの罪として評価されると考えられます。
また、量刑への影響ですが、1本の時よりは、3本持ち歩いているほうが危険性の程度が高いと判断される可能性はあります。
なお、銃刀法22条違反の刑罰は、2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金です。
(参考資料)
「注釈銃砲刀剣類所持等取締法(第3版)」(辻義之、大塚尚/立花書房、2022年10月)
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

