勇ましい「武者絵」で知られる歌川国芳。実は大の猫好きだった!
歌川国芳『猫通俗水滸伝豪傑百八人之一個 張順』, Public domain, via Wikimedia Commons.
歌川国芳は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師です。当時、最大の浮世絵師集団と呼ばれていた「歌川派」の絵師のひとりで、初代・歌川豊国(1769-1825)の門人として修行を積みました。
国芳は生涯に多くの絵を残し、特に「武者絵」と呼ばれる歴史上の英雄を描いた錦絵で知られています。
その中でも、中国の小説『水滸伝(すいこでん)』に登場する人物たちの勇姿を描いた『通俗水滸伝豪傑百八人之一個(ほんちょうすいこでんごうけつはっぴゃくにんのひとり)』が大きな反響を呼びました。
このように勇ましい作品で知られる国芳ですが、プライベートでは無類の猫好きだったと言われています。国芳の周りには常に猫が何匹もいて、執筆中に懐に入れていたこともあったそうです。
また、可愛がっていた猫が死んだ時には戒名をつけて丁重に弔うなど、国芳にとって猫は家族同然の存在でした。
そんな国芳の猫愛が、数多くの傑作を生み出したのです。
国芳の猫好きが炸裂!猫が主役の浮世絵5選
では、国芳は実際にどんな猫の浮世絵を描いたのでしょうか。
国芳が描く猫たちは、どの作品も非常にユニークで魅力的です。猫を使ったダジャレ、猫の擬人化、そして歌舞伎の演目に猫を登場させるなど、遊び心に溢れた作品ばかりです。
ここからは、国芳ならではの奇想天外で可愛い猫の浮世絵たちを紹介します。
『猫飼好五十三疋』|『東海道五十三次』シリーズのパロディ作品
歌川国芳『猫飼好五十三疋』, Public domain, via Wikimedia Commons.
国芳の描いた猫の絵の中で特に有名なのが、歌川広重の『東海道五十三次』シリーズのパロディ『猫飼好(みゃうかいこう)五十三疋』です。
「猫飼好」というタイトルを聞いただけで、国芳がいかに猫好きかが伝わってくるこの作品では、猫のさまざまな姿態が丹念に描き分けられています。
「五十三疋(53匹)」というタイトルがついていますが、実際には63匹の親猫と10匹の子猫、計73匹もの猫が描かれた大作です。国芳の、猫への並々ならぬ思い入れが伝わります。
『猫の当て字』|"人文字"ならぬ"猫文字"?
歌川国芳『猫の当て字』, Public domain, via Wikimedia Commons.
猫を描いた絵の中で、特に面白い趣向を凝らしたのが『猫の当て字』です。
タイトルの通り、猫がひらがなのポーズを取っています。ひらがなの湾曲した形と猫のなめらかな体のラインが見事にマッチして、面白くも可愛らしい作品です。
本絵に描かれたのは、猫による「なまづ」(なまず)という言葉。左上には2匹のナマズを見つけられます。
「梅の初春五十三駅」より『五捨三十次内 岡崎の場』|怖い猫たち
「梅の初春五十三駅」より『五捨三十次内 岡崎の場』, Public domain, via Wikimedia Commons.
歌舞伎作品には、物語の中に猫が登場する演目もありました。そのひとつが『五捨三十次内 岡崎の場』です。
舞台は岡崎にある古寺。そこへ旅の一行が立ち寄り、一夜の宿を求めました。
しかし、この古寺には猫の精霊が潜んでいたのです。旅人のひとりは猫の精霊に食い殺され、別の旅人も、猫の精霊と合体した死霊の怨念によって命を落とすことになります。
絵に描かれているのは、老婆に化けた猫の精霊と複数の化け猫たち。実際の舞台では人形が使われていたそうですが、国芳は化け猫たちを本物の猫としてリアルに表現しました。
かわいいだけではなく、猫の恐ろしい側面を見事に表現した1枚です。
『鼠よけの猫』|実用的な“お守り代わり”の絵
歌川国芳『鼠よけの猫』, Public domain, 国立文化財機構より.
おもしろい視点や奇抜なアイディアで猫を描いた国芳ですが、実用的な絵も残しています。
江戸時代には、ネズミよけのために猫の絵が流通しました。この『鼠よけの猫』の絵には「この絵を家に張っておくと鼠が恐れて出てこなくなる」と書かれており、お札やお守りのような役目を果たしていたことがわかります。
首に鈴をつけた猫がじっと上を見ており、今にも獲物に飛びかかっていきそうです。猫の動作や習性に対する、国芳の観察眼が光っています。
『猫のけいこ』|猫も人間も、恋は同じ?
歌川国芳『猫のけいこ』, Public domain, via Wikimedia Commons.
国芳による猫の擬人化は、実にユニークな表現で描かれました。猫が歌舞伎など「お芝居」の役を演じるのではなく、現実世界の人間に成り代わってしまったような作品たちです。
1枚の団扇(うちわ)に描かれた『猫のけいこ』という作品では、猫たちが三味線の稽古に励んでいます。その様子は、まるで人間そのものです。
大人の色香が漂うメスの師匠と、彼女の気を引こうと稽古に励む2匹のオス猫。どちらが彼女の心を射止めるのかはわかりませんが、国芳は猫の姿を通して、いつの時代にも変わらない普遍的な感情を描こうとしたのかもしれません。
