介護が始まると、日々のケアに対する不安だけでなく、毎月かかる費用の負担に頭を悩ませる方は少なくありません。
「貯蓄が減っていくのが怖い」「将来、施設に入居できるのか」と漠然とした不安を抱えながらも、複雑な制度を前に何から手をつければよいか迷ってしまうこともあるでしょう。
この記事では、介護保険や税金の控除制度を活用して、介護費用を抑える方法を解説します。
また、自己負担を減らすための具体的な申請手続きや、費用の負担を考慮した今後の選択肢にもあわせて触れます。
利用できる仕組みを正しく理解し、無理のない計画で介護と向き合うために、ぜひ参考にしてください。

監修社会福祉士:
小田村 悠希(社会福祉士)
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
介護費用の平均

介護にかかる費用は、大きく一時的な費用と月々の費用の2つに分類されます。
公益財団法人生命保険文化センターの2024年度の調査結果に基づく平均額は、以下のとおりです。
一時的な費用(住宅改修や介護ベッドの購入など)
月々の費用(介護サービス利用料や医療費、消耗品費など)
一時的な費用の平均は47.2万円、月々の費用は平均9.0万円です。
また、同調査における介護期間の平均は55.0ヶ月(4年7ヶ月)となっており、これらをもとに算出した総額の目安は約542万円です。
ただし、これらはあくまで平均値です。在宅介護か施設入居か、あるいは本人の要介護度によって金額は大きく変動するため、個別の状況に合わせて備える必要があります。
参照:『2024(令和6)年度 生活保障に関する調査』(公益財団法人 生命保険文化センター)
介護費用を抑える各種制度

介護にかかる費用は、公的制度を正しく活用することで大幅に抑えられます。
しかし、多くの制度は対象者であっても自ら申請しなければ適用されない申請主義をとっています。
知らずに高い費用を払い続けてしまうことがないよう、どのような負担軽減の仕組みがあるのかを把握し、利用できるものは漏れなく申請しましょう。
ここでは、特に押さえておきたい主要な7つの制度を解説します。
介護保険
日本の公的介護保険制度は、原則として費用の1割から3割の自己負担でサービスを利用できる仕組みです。
まずはこの基本ルールを活かし、定められた区分支給限度基準額の範囲内でサービスを組み合わせることが、費用を抑える基本です。
1ヶ月あたりに保険適用で利用できる金額の目安は、以下のとおり要介護度によって異なります。
要支援1~2:約5万円~約10万5千円
要介護1~5:約16万7千円~約36万2千円
参照:『介護報酬ハンドブック』(シルバー産業新聞社)記載の単位数に1単位10円を乗じて算出
例えば、要介護1の認定を受けている場合、月額約16万7千円までのサービスを1割負担(約1万6千円)で利用可能です。
しかし、この限度額を超えてサービスを利用した場合、超過分は全額自己負担(10割負担)になります。
体調の変化などでサービスの追加が必要な際は、限度額を超えないようケアマネジャーと相談し、プランを調整することが賢明です。
高額介護サービス費
1ヶ月に支払った介護サービスの自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超過分が払い戻される制度です。
同じ世帯で複数の人が利用している場合は、全員分の負担額を合算できます。
所得区分ごとの上限額(月額)の目安は次のとおりです。
現役並み所得者(年収約383万円以上):44,400円〜140,100円
一般世帯:44,400円
市町村民税非課税世帯など:15,000円〜24,600円
一般的な所得区分の世帯では上限額が44,400円とされており、これを超えた分が後から戻ってきます。
対象者には自治体から申請書が届くのが一般的ですが、申請期限を過ぎると受け取れなくなるため、郵便物の確認を怠らないようにしましょう。
参照:『高額介護サービス費の負担限度額が見直されます』(厚生労働省)
高額医療・高額介護合算療養費制度
医療費と介護費用の両方が高額になり、家計の負担が重くなった場合に利用できる制度です。
毎年8月から翌年7月までの1年間にかかった医療保険と介護保険の自己負担額を合算し、基準額を超えた金額が支給されます。
主な基準額(年額)は以下のとおりです。
70歳未満:約34万円~212万円(所得による)
70歳以上:約19万円~67万円(所得による)
70歳以上の一般世帯であれば、年間の上限額は56万円です。
医療費が高額になりがちな高齢世帯にとって、年間数万円から十数万円が戻ってくる可能性があるため、見落とさないよう確認したい制度です。
参照:『高額介護合算療養費制度について』(厚生労働省)
公的介護保険料の減免制度
災害や失業、事業の不振などで収入が著しく減少し、介護保険料の支払いが困難になった場合に、保険料が減額または免除される制度です。
対象となる主なケースは以下のとおりです。
災害により住宅や家財に著しい損害を受けた場合
生計維持者の死亡や長期入院、失業などで収入が減少した場合
減免の基準や申請方法は自治体によって異なります。
保険料を滞納すると、将来的に介護サービスを利用する際の自己負担割合が引き上げられるなどのペナルティを受ける可能性があります。
支払いが厳しいと感じた段階で、早めに市区町村の窓口へ相談に行きましょう。
家族介護慰労金の制度
要介護4や5などの重度の要介護者を、介護保険サービスを利用せずに在宅で介護している家族に対し、自治体から慰労金が支給される制度です。
支給額は自治体により異なりますが、年額10万円程度が一般的です。
支給を受けるためには、主に以下のような要件を満たす必要があります。
要介護4または5の認定を受けている
過去1年間、介護保険サービスを利用していない
世帯全員が住民税非課税
この制度は、サービスを使わずに家族だけで介護を担っていることが前提のため、デイサービスなどを利用している場合は対象外です。
経済的な支援ではありますが、無理をしてサービス利用を控えると共倒れになるリスクもあるため、慎重な判断が求められます。
参照:『家族介護慰労金』(広島市)
高齢者住宅改修費用助成制度
在宅での生活を安全に続けるために住宅の改修を行う際、その費用の一部が支給される制度です。
要支援または要介護の認定を受けている方が対象で、生涯で20万円を上限に、費用の7割から9割が支給されます。
対象となる工事の種類は以下のとおりです。
手すりの取り付け
段差の解消
床材の変更や扉の取り替えなど
基本は上限20万円ですが、自治体によっては独自の上乗せ助成を行っている場合があります。
例えば、介護保険の枠とは別に数万円〜数十万円の助成枠を設けていたり、要介護認定を受ける前の方でも利用できる制度を用意していたりするケースです。
リフォーム費用は高額になりがちですので、ケアマネジャーや役所の窓口で「市町村独自の助成金はないか」とあわせて確認することをおすすめします。
また、この制度を利用するうえで重要な点は、工事前の事前申請が必要であることです。先に工事をしてしまうと助成金が受け取れないため、施工前に市区町村の承認を得るようにしましょう。
参照:
『介護保険における住宅改修』(厚生労働省)
『高齢者住宅改修費支援サービス事業』(千葉市)
負担限度額認定制度
介護施設に入居した際やショートステイを利用した際にかかる費用のうち、食費と居住費(滞在費)の負担を軽減する制度です。
介護サービス費(ケア代)は1〜3割負担ですが、食費と居住費は原則として全額自己負担です。
しかし、住民税非課税世帯や生活保護受給者などで、資産が一定以下の方は、負担の上限額が設定され、超過分が介護保険から支給(特定入所者介護サービス費)されます。
認定を受けるためには、以下の要件などを満たす必要があります。
利用者負担段階(所得に応じた区分)
資産要件(所得段階により単身500~650万円以下、夫婦1,500~1,650万円以下など。※第2号被保険者は単身1,000万円以下、夫婦2,000万円以下)
この制度が適用されると、例えば第1段階の方が多床室(相部屋)を利用した場合、居住費の自己負担は0円です。
施設入居時だけでなく、在宅介護中のショートステイ利用時にも適用されるため、要件を満たす場合は「介護保険負担限度額認定証」の交付申請を行いましょう。
参照:『介護保険制度における負担限度額認定証とは何ですか。』(横浜市)

