「19番目のカルテ」が描いた“総合診療医”の現実。地域医療は崩壊寸前?

「19番目のカルテ」が描いた“総合診療医”の現実。地域医療は崩壊寸前?

2040年、診療所が半減する地域も

2040年、診療所が半減する地域も

編集部

地域医療の将来はどうなっていくのでしょうか。

前野先生

厚生労働省の資料によると、診療所の医師が80歳で引退し、後継者も新規開業もないと仮定すると、全国の多くの地域で2040年には診療所が半減する地域が多数出てくると予測されています。実際、20年間以上も新規開業が全くない市町村も存在します。さらに、現在の診療所医師の半数以上は60歳を超えており、団塊の世代と同時期に引退するケースが急増すると考えられています。加えて、若い世代は専門医志向が強く、地域の幅広い医療ニーズに十分に応えることが難しい状況です。

編集部

なぜ総合診療医が増えないのでしょうか。

前野先生

日本のプライマリケア(初期診療)は、もとは臓器別の専門医をされていた先生が支えています。トレーニングを受けた総合診療医でなくても開業できますし、保険診療上は、専門的なトレーニングを受けた総合診療医も昨日まで臓器別専門医だった人も診療報酬は同じです。医学生の多くは入学時に「総合診療医になりたい」と言いますが、専攻医になるときには約97%が総合診療以外の専門医を目指します。その大きな理由の一つとして、臨床実習を行う大学病院で診るのは専門診療ばかりなので、総合診療のイメージをつかむのは難しいことが影響していると思います。

編集部

政府はどのような対策を考えているのでしょうか。

前野先生

医師の偏在解消パッケージの中に「総合的な診療能力を持つ医師を増やす」ことが政策目標として掲げられています。このように、社会からの地域を支えてほしいというニーズは非常に高いです。私たちは学生や研修医に対して、総合診療の専門性や社会からの高い期待や将来性について正しく伝え、そのキャリアを支援していきたいと思っていますし、現在は臓器専門医でこれからプライマリケアを取り組もうとする人のリカレント教育も充実させるなど、様々なフェーズにコミットして地域で活躍する総合診療医を幅広く育成していきたいと思っています。

編集部まとめ

前野先生が描く総合診療医像は、単に幅広い疾患を診断する医師ではなく、地域という「場」全体を診る医師でした。2040年には診療所が半減する地域が多いと予測される中、専門分化した医療だけでは地域医療は成り立ちません。医学教育の改革、診療報酬制度の見直し、そして総合診療医の価値を社会全体で認識することが、日本の地域医療を守るために不可欠だと痛感しました。

関連:
【厚労省】医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48023.html

配信元: Medical DOC

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