肺がんは日本人のがん死亡原因の上位を占める深刻な病気ですが、ステージ1(I期)で発見できれば治療によって治癒を期待できる場合が多い早期の段階です。ステージ1の肺がんはがんが肺の中にとどまって小さいうちに見つかった状態で、症状が乏しいこともあります。本記事では、肺がんのステージ1、そして治療法、早期発見のためにできることを解説します。

監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
肺がんとは

肺がんのステージ1について解説する前に、まずは肺がんとそのステージの分け方を解説します。
肺がんの概要と発生のしくみ
肺がんとは、肺の細胞が何らかの原因でがん化し、異常に増殖する病気です。進行すると血液やリンパの流れに乗ってリンパ節やほかの臓器へ転移することがあります。肺がんを発症する最大の危険因子は喫煙で、喫煙者は非喫煙者に比べて肺がんになるリスクが高まります。喫煙などにより肺の細胞の遺伝子に傷がつくことで、正常な細胞ががん細胞へと変化し増殖することで肺がんが発生します。
肺がんにはいくつかの種類がありますが、主な組織型として、腺がんや扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの4つが挙げられます。日本では腺がんが最も多く、肺がん全体の半数以上を占め、次いで扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんの順に多くみられます。肺がんの治療方針は組織型によって大きく異なり、特に小細胞がんか非小細胞がんかで治療法が分かれます。また、大細胞がんは2015年に WHO(世界保健機関)によって定義が見直されました。免疫染色でさらに厳密に定義されるようになり、現在大細胞がんと診断される頻度はさらに少なくなっています。
肺がんのステージ分類(1〜4期)
肺がんを含む多くのがんでは、診断時の進行度合いをステージで分類します。ステージは一般にⅠ期(1期)からⅣ期(4期)まであり、数字が大きいほど進行した段階を示します。ステージ決定には腫瘍の大きさや広がり、リンパ節への転移の有無、遠隔転移の有無というTNM分類の組み合わせが用いられます。
ステージ0:早期の状態で、がんが粘膜内にとどまり、リンパ節転移がない状態を指します
ステージI(1期):がんが肺の中に限局し、リンパ節転移がない状態を指します
ステージII(2期):がんが肺内で大きくなっているか、または近くのリンパ節に転移がある状態です
ステージIII(3期):がんが肺の周囲組織や重要な臓器に達したり、縦隔や鎖骨上窩などのリンパ節に転移が広がった状態です
ステージIV(4期):遠隔転移がある最も進行した状態で、反対側の肺や脳や肝臓、骨など肺から離れた臓器に転移が認められる場合です
組織型別|ステージ1肺がんの症状

肺がんの症状は、腫瘍の位置や組織型によって現れ方が異なります。一般的に肺がんの初期(ステージI)には自覚症状がほとんどないことも多く、がんが進行してから初めて症状に気付く場合も少なくありません。主な症状としては咳や痰、痰に血が混じる血痰、胸の痛み、動いたときの息苦しさ、動悸、微熱などがあります。これらは肺炎や気管支炎などほかの呼吸器疾患でもよくある症状であり、この症状があれば必ず肺がんという特徴的な症状はありません。以下に、組織型ごとのステージ1でみられる症状の特徴を解説します。
腺がんの症状
肺腺がんは肺がんのなかで最も患者数が多いタイプで、特に肺の奥の末梢(肺野部)に発生しやすい傾向があります。末梢部の肺は痛みを感じる神経が少なく、気管支からも離れているため、小さながんができても咳などの症状が出にくいのが特徴です。そのため、ステージ1の肺腺がんでは自覚症状がまったくないことが多いとされています。症状が出るとしても、腫瘍がある程度大きくなって肺の気管支を圧迫したり、胸膜に近い場所にできて刺激した場合に、軽い咳が続く、呼吸が浅くなって息切れを感じる、あるいは胸の違和感や痛みを感じる程度です。
扁平上皮がんの症状
肺扁平上皮がんは肺門部、つまり肺の入り口付近に発生することが多いタイプの肺がんです。そのため、早期から咳や血痰が現れやすい傾向があります。ステージ1の小さい扁平上皮がんであっても、気管支粘膜を刺激することで喉の奥がムズムズする咳が長引いたり、痰にピンク色の血が混ざる血痰が見られることがあります。また、腫瘍が気管支を部分的にふさぐと、その先の肺に炎症を起こし、発熱や膿性の痰が出る場合もあります。
大細胞がんの症状
肺大細胞がんは肺野部に発生することが多いものの、発症頻度の低いまれながんです。早期(ステージ1)で腫瘍が小さいうちは、多くの場合症状らしい症状はありません。腺がんと同じく肺の末梢にできることが多いため、症状が出るとしても腫瘍がある程度大きくなってからです。がん細胞の増殖速度は速いです。
小細胞がんの症状
小細胞がんは肺門部寄りの中央部にも肺の末梢部にも発生しうるタイプですが、特に気管支付近にできやすい傾向があります。また、小細胞がんは悪性度が高く増殖が速いため、多くの場合症状に気付いたときにはすでに進行していることが多いのですが、極めて早期のステージ1で発見されるケースもわずかながら存在します。そのようなステージ1の小細胞肺がんでは、腫瘍が小さくても気道近くに発生している場合が多いため、咳や血痰といった症状が初期から出現しやすい点は扁平上皮がんと似ています。

