普通の兼業主婦・沙織(33)の唯一の癒やしは、推しのライブ。長年の友人・望とともに出かけたのですが、帰りのファミレスで彼女から不穏な気配を感じて…。
長年続く親友関係
「今日のセトリ、やばかった!」
「神曲ばっかりだったよねえ」
女子高生のような会話が、夜のファミレスの片隅で行われる。しかし、ペンライトとうちわをバッグに隠し持つ私たちの年齢はともに33歳。推しアイドルのライブ帰りで、興奮を分かち合うために来ていた。
私の名前は田中沙織(33歳)。どこにでもいる兼業主婦である私の唯一の癒しは、好きなアイドルの推し活動だ。年数回のリフレッシュにいつも付き合ってくれる友人の名前は、日下部望(のぞみ)。
中学時代にアイドル趣味で気が合った彼女とは、大人になった今も付き合いが続いている。社会人になっても、おばさんになっても、推しのイベントに来れば当時のようにはしゃいでしまう。夫にも息子にも見せない一面を、恥ずかしげもなく露わにできるのは、望の前でだけだった。
ふいに感じる彼女の卑屈さ
ドリンクバーと数品の料理でおなかを満たす。ライブの感想を言い尽きると、ふと望が言った。
「沙織さ、こんな時間まで大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。夫には子どもと先に寝ていいよって言ってあるし」
時計を見ればもう22時だ。金曜日のライブだったので、明日は休みで仕事には支障ない。息子の寝かしつけだって、夫の賢治(けんじ)に頼んでいる。
「いいな~、素敵な旦那さんがいて」
「そんなことないよ。望だって、勝(まさる)さんがいるじゃない」
「きっと子どもができたら、こんなお出かけ許してもらえなくなるよ」
力なく笑った望が、少し気になった。望も結婚しているが、子どもはまだいない。結婚したのが2年前で、結婚してすぐに専業主婦になった彼女。義実家からは早く孫が欲しいと急かされているという。
この話に限らず、最近は望の発言がちょっと気になる。「いいな、私なんて…」「羨ましいな」など、自分を卑下するような言葉が増えた。時に卑屈とも思える自分下げは、彼女らしくない。少しだけ、不穏な気配を感じていた。

