一つ一つに誠実に向き合う。それが信頼関係に繫がる
和田 若手の経営者には、どんな失敗談を話すのですか?
宮内 失敗はいっぱいありますからね(笑)。しかも相手は一人一人、年齢も業種も企業規模も違いますから。一般論で「こうしなさい」と言えるものではない。画一的に応じるのは無理がありますよね。
和田 それは僕も医者をやっているのでわかります。だけど多くの医者は画一的なんですよ。ですが、今やAIの時代です。検査結果や画像データから診断して画一的に薬を出すなら、AIのほうが優秀です。そうなると、医者は不要になってしまう。
宮内 それは困りますね。企業経営にも、これからAIに助けてもらう部分が増えてきます。AIをどう利用して経営判断に繫げるかが課題になってくるでしょうね。
和田 そうでしょうね。医療で言えば、医者にはAIにはない生きた知恵があります。一対一で話をして「この人は自分の経験から診て、ここが問題だ」と気づく。あるいは長年その患者さんを診てきたからこそ気づける変化もあるんです。いわゆる「主治医」とか「かかりつけ医」だからできる個別の医療です。それには信頼関係が大事です。
宮内 経営も同じですよ。やはり信頼関係が大事です。
和田 信頼関係からは意外なメリットも生まれます。例えば、「この医師に診てもらうと安心する」とか「なんか気が楽になる」ってありますよね。心理効果が、治療効果を上げていることがあるんです。経営も医療も人が相手ですから、十把一絡げに一般化なんてできない。それぞれの問題や事象に対して一つ一つ誠実に、懸命に向き合うしかないのだと思います。
宮内 本当にそう思いますね。一人一人、一つ一つ全然違いますから。
ひとりで全部はできない。人に頼って力を引き出す
和田 話は変わりますが、「人の上に立つヒント」のようなものはありますか。
宮内 私が思うに、やはり企業は人間社会なんですよ。コンピューターが経営してくれるわけではない。経営者には「人間的魅力」と「間違いない経営判断のできる能力」という、ふたつの資質が求められると思っています。まず人間の上に立つ人というのは、チャーミングでないといかん、と思いますね。
和田 チャーミング? 人間的魅力の部分ですね。
宮内 はい。この人と一緒に仕事をやりたい、と思ってくれるかどうか。チャーミングな人間というのは、遺伝子ではなくて、「自分を磨く」ということをやった人だと私は思います。磨いているうちにだんだん人間に深みが出て、魅力が出てくる。そういう人がリーダーになる組織は、うまくいくと思いますね。
和田 なるほど。
宮内 チャーミングということでは、もちろん可愛げも必要だと思います。ただ、人間的なチャーミングさだけでは会社はうまくいきません。リーダーのもうひとつの資質として「こっちに向いて行け」と正しい方向を示すことは、やはり大事ですからね。
和田 たしかにそうですね。
宮内 人間性と経営力。未来に対して「この会社をどっちの方向に持っていくか」を必死に考えて、みんなを引っ張っていく。そういう人間がリーダーになると、会社は伸びるんだろうな、と思います。
和田 宮内さんご自身も?
宮内 私の場合、たしかに方向性は自分で一所懸命考えました。けれども「俺についてこい」と全員を引きずっていくタイプではなかったですね。「この部分は君、この部分はあなた」と権限委譲した。みんなでやったという意識が非常に強いですね。
和田 そうなんですか? ぐいぐい引っ張っていくほうだと思っていました(笑)。
宮内 トップひとりでは会社はよくなりません。みんなでやらないとダメなんです。
和田 バカ社長は会社を潰す。
宮内 トップは会社を潰す力があることを自覚したほうがいいですね。そのうえで一緒に頑張る力が大事なんですよ。
和田 なるほど。
宮内 初めは自分で走りたくなるんです。だけどひとりで走ったって大したことないんです。「俺が走ったら100点だ」と走っても、やることは5つも6つもあるわけで、全部はできません。だったら他の人がそれぞれ80点ずつ取ってくれたほうがいい。そんなふうに思って、みんな任せてしまいました。
和田 さすがですね。例えば、医者であれ経営者であれ「今のことはよく見える」というリーダーはいます。でも「先のことまで見える」というのが優れたリーダーの条件かもしれません。
宮内 自分では先が見えている自信はありませんが(笑)。
和田 無理して体力を使い果たしたら、長い間は続けられません。宮内さんがここまでやってきたのは、いろんな人に任せる能力があったからでしょう。それも先を見る目があったからだと思います。
宮内 結果的にうまくいったのかもしれませんね。

