Tatami Alcove, Public domain, via Wikimedia Commons.
文人趣味(ぶんじんしゅみ)とは
Evening Landscape with Traveler, second half 18th century Yosa Buson, Public domain, via Wikimedia Commons.
文人趣味とは、江戸時代中期から後期にかけて日本の知識人たちが追求した、単なる趣味の範疇を超える理想的なライフスタイルそのものを指します。具体的には詩・書・画・茶などの芸術を通じて、自らの精神を高める遊びを行いました。
文人趣味の由来
文人とは本来、中国において学識があり、公務の傍らで芸術を嗜んだ知識階級である「士大夫」を指します。士大夫たちは形式に縛られることを嫌い、自らの内面にある雅を重んじる心を大切にしました。
その自由で高潔な精神に裏打ちされた習慣が、日本でも関心を持たれたのです。
文人趣味の日本における受容
江戸時代中期、長崎を通じて中国の明・清時代の文化が流入すると、日本の知識人たちはその洗練された暮らしぶりに強い憧れを抱きました。文人たちの営みを真似て、次第に日本独自の文人文化が形成されていきます。
やがて明治時代にかけて、文人の集まりはサロンとして機能しました。異なる立場の教養人たちが共通の趣味のもとに集まる、自由な場だったといえます。
煎茶
Pair of Tea Jars with Poetic Inscriptions Aoki Mokubei (Japan, 1767-1833), Public domain, via Wikimedia Commons.
文人趣味を語る上で欠かせないのが煎茶です。煎茶は、文人趣味の精神を最も象徴する飲み物でした。
江戸時代の主流だった茶の湯は、厳しい作法や家元制度によって形式化が進んでいました。自由を愛する文人たちは、そうした窮屈な形式を嫌い、もっと自由で、語らいながら楽しめる煎茶を支持したのです。
煎茶は、急須で淹れたお茶を小さな茶碗で楽しむスタイルです。これは当時の中国の飲み方であり、知的な会話を楽しみながら何杯も飲み交わすのに適していました。
南画(文人画)
Peach Blossom Spring (after Shao Zhenxian), Public domain, via Wikimedia Commons.
文人たちが描いた絵画は「南画(なんが)」、あるいは「文人画」と呼ばれます。その特徴は、描く人の精神性を重視するおおらかさにあります。
日本では文人画を大成させた画家として、与謝蕪村や池大雅が知られています。ダイナミックでありながらも温和な雰囲気のある山水画などを描き、情緒豊かな作品を多く残しています。絵には詩や書が添えられました。
書・漢籍
Chinese Poems and Calligraphy, Public domain, via Wikimedia Commons.
文人にとって、書は自己表現の最も直接的な手段でした。積極的に書に取り組むとともに、書の鑑賞も行われています。
その土台となっているのが、漢詩や漢文など漢籍の深い教養です。
文房具
Four treasures of Chinese calligraphy (文房四宝), Public domain, via Wikimedia Commons.
本場である中国の文人たちは、文房四宝(ぶんぼうしほう)と呼ばれる筆・墨・硯・紙を使いこなす、芸術の愛好家でした。
これらは単なるコレクションではなく、理想の書斎を構築するための持ち物です。こだわり抜いた道具に囲まれることで、文人たちは自らの創作意欲を高め、精神を研ぎ澄ませたのです。また、文房とは書斎のことであり、そこに置く古美術品を鑑賞して楽しむ「文房清玩(ぶんぼうせいがん)」も重要な教養の一つでした。
