「部屋で2人きりになったら“ダメだよ”」「そんな短いスカートで夜道を歩いたら“危ないよ”」——子どもを守りたい一心で、愛情を持って、そうした“禁止の言葉”をかけたことがある方も少なくないはず。
けれど、「実はそれだけでは、子どもを守るのに十分とは言えない場面もあるんです」と指摘するのは、多くの教育現場で性教育の講演をしている山田亜弥さん。
「『あなたは悪くないんだよ』って、言い続けることがすごく大事なんです」。子どもが自分の体を守るために本当に必要な性教育とは何なのか? 山田さんに話を聞きました。万が一のときに「自分が悪い」とは決して思わせないために
――日本の性教育にはどんな課題があると感じていますか?山田亜弥さん(以下、山田):日本の性教育の課題は、「ダメ」「気を付けて」という禁止教育になっていることなんです。例えば、「部屋で2人きりになったら危ないよ」「痴漢に遭わないように気をつけて」「そんな短いスカートをはいて夜道を歩いちゃダメだよ」というもの。
家族や大人は愛情をもって言ってくれているのですが、この「ダメだよ教育」を受けていると、万一被害に遭ったときに「部屋で2人きりになった自分が悪い」「短いスカートを履いていた私が悪い」「暗い道を一人で歩いていたから被害に遭った」と被害者が自分を責めてしまうんです。
――性被害の報道などに対し、加害者が絶対的に悪いのに、「そんな恰好をしてるから痴漢に遭うんだ」という言葉もよく聞きます。
山田:女性が性暴力の被害に遭ったとき、「いっしょにお酒を飲んでいたんだよね」とか「夜に家に行ったんだよね」って、必ずといっていいほど被害者側の行動が問われてしまいます。でも、こうした言葉そのものが、被害者をさらに傷つける二次加害なんですよね。
ユニセフなどの国際機関が発表している「包括的性教育」の中には、「暴力と安全確保」について学ぶ内容があるんです。その中で、「被害者は悪くない、どんな暴力にも声を上げていい」っていう話を子どもたちは理解するんですね。この「被害者は悪くない」という意識が、残念ながら日本にはまだまだ浸透していないんです。
「あなたは悪くない」と伝え続けることの大切さ
――たしかにそうですね。山田:注意されていたのに自分は守れなかったとなると、被害に遭った自分を責めてしまいます。そうするとどうなるかというと、必要なときに“大人に相談する”というステップに進めない。万一避妊に失敗して妊娠をしてしまっても、誰にも言えなくなってしまいます。これでは大切な自分の心と体が守れません。
――一人で抱え込まないといけなくなりますね。
山田:被害者は自分を責めてしまうし、そのうえ二次被害もあるかもしれない。だからこそ、「それでもあなたは悪くないんだよ」って言い続けてもらえるのがすごく大事です。性暴力の被害者のかたから直接お話をきく研修に参加したことがあるのですが、性暴力に遭ったほとんどの方が「私が悪かった」って思ってるんです。だから、「もし万が一被害に遭ってしまった場合でも、あなたは悪くないんだよ」と小さいときから教えていく必要性を強く感じます。
子どもの頃から「○○をしたらダメ」「○○をしたから悪い」と言われて育ってしまったら、被害に遭ってから「あなたは悪くないよ」って言われたとしても、被害に遭った私自身がよくないんだって一瞬で思ってしまいますよね。
――わが子が大切だからこそ伝えている言葉が、子どもを苦しめてしまうこともあるんですね。
山田:だからこそ、小さい頃から「あなたが嫌なときは嫌だって言っていいし、言えなかったとしても、あなたは悪くない」と伝え続ける。子どもたちに「何かあったら言ってね。あなたがもし間違ってしまっても、被害に遭ったとしても、守ってくれる大人はいるからね。大丈夫だよ」って伝えておかないと、何かあったときに相談はしてくれないかもしれません。
私が包括的性教育を日々みなさんにお話しているのは、大切な人をちゃんと守ってほしいという気持ちがあるからなんです。
――もし何かあっても大人が守ってくれる。この言葉は心強いですね。
山田:私自身も包括的性教育を学ぶと、過去を振り返って悲しくなることがあるんです。「あのとき大人に助けてほしかったけど、真っ先に思ったのは『私が悪かった』だったなぁ」とか。「お母さんにこれを言いたいけど、怒られると思った」とか。たった一言「助けて」って言えたら、こんなに生きづらくなかったなっていうことが山ほどあって。
だからこそ、子どもたちには「嫌だった」とか「助けてほしい」を言っていいし、「できない」みたいな弱音も吐いていいんだよと伝えたいです。そんなメッセージを伝えるのも包括的性教育の一つ。だから、包括的性教育って性行為教育ではなく、日常のコミュニケーションの話でもあるんですよね。

