膵臓がんは「発見が遅れやすいがん」として医学界でも知られています。症状がほとんど出ないまま進行してしまうことも多く、画像検査でも初期の小さながんは見つけにくいという厄介な特性を持っています。しかし、なぜ医学の専門家ですら見つけるのが難しいのでしょうか。この記事では、膵臓がんが早期に発見されにくい医学的な理由から、予防の方法まで、AIC八重洲クリニックの澤野先生にわかりやすく解説していただきました。「自分や家族のために知っておきたい知識」として、膵臓がんの正体に迫ります。
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監修医師:
澤野 誠志(AIC八重洲クリニック)
日本医科大学を卒業後、放射線治療・がん診療に従事。日本医科大学付属病院において放射線医局長を務め、癌研究会付属病院(現・がん研究会有明病院)放射線診断科副部長を歴任。現在は 「AIC八重洲クリニック」院長・理事長。AIC画像検査センター理事長を兼任し、先進画像診断技術の臨床応用と普及に寄与している。MRI、CT、PET-CT、マンモグラフィなどのモダリティを用いたがんの早期発見、とりわけ膵臓・肝臓領域の画像診断に注力している。日本医学放射線学会放射線診断専門医の資格を有する。
なぜ膵臓がんは見つけにくいのか
編集部
はじめに、膵臓とはどんな臓器なのか教えてください。
澤野先生
膵臓は胃の後ろの腹部奥深くにある臓器で、長さは15cm程度ですが厚みは10〜30mm程度の比較的扁平な形態で外部からは見つけにくい場所にあります。食べ物を分解する強力な消化液(膵液)をつくるほか、血糖値を調整するインスリンなどのホルモンも分泌しており、消化と代謝の両面を支える生命維持に欠かせない臓器です。
編集部
膵臓がんが見つけにくい最大の理由は「症状がない」ことだと聞きましたが本当ですか?
澤野先生
その通りです。これが最も厄介な点です。膵臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、腫瘍ができても初期段階ではほぼ症状が出ません。患者さんは何も感じないまま、体の中でがんが静かに進行しているのです。症状が出始めるのは、がんが膵管や周囲の臓器を圧迫するほど大きくなったとき。その時点では、すでに進行していることがほとんどです。背中の痛みや黄疸、消化不良などが出たときには、見つかるまでに相当な時間が経過している可能性が高いのです。
編集部
ほかには、どのような理由によって膵臓がんの早期発見が難しくなっているのでしょうか?
澤野先生
膵臓は位置が深く屈曲して扁平で、周囲に胃や腸などで囲まれているため画像に写りにくいのです。CT・MRI・超音波検査でも、5mm以下の小さながんを確実に見つけることは困難です。さらに、膵臓には良性の腫瘍も多く存在するため、医師でも「これはがんか良性か」を区別するのに時間がかかってしまいます。その間にがんが進行してしまうこともあります。つまり、検査に見えない段階でがんが進行する可能性があるのです。
見逃されると何が起こるのか
編集部
膵臓がんの「ステージ」によって、治療成績は大きく変わるのですか?
澤野先生
データを見ると、その差は歴然としています。膵臓がんの5年生存率はステージによって大きく異なります。ステージ0や1では手術で完全に取り除けば比較的良好ですが、膵臓がんのうち約70~80%は発見時にすでにステージ2以降に進行しています。ステージ3では周囲の血管に及んでおり、手術でも完全に取り除けない場合があります。ステージ4では生存率は極めて低くなります。つまり「発見されるタイミング」が患者さんの予後を決めてしまうのです。
編集部
なぜ膵臓がんはほかのがんに比べて、「予後が悪い」と言われるのですか?
澤野先生
前述の通り、膵臓がんは進行して発見されることが多く悪性度も高い場合が多いと言われています。さらに大きな血管に接しているため手術で完全に取り除くことが難しく、抗がん剤が効きにくいケースも多いのです。また、患者さんは短期間で体重が減少し、体力が低下することが多いため、治療に耐える時間的余裕が限られています。これらの理由が重なることで、膵臓がんは医学界で「最も予後が悪いがんの一つ」とされているのです。
編集部
専門医でも見落とすことがあるというのは本当でしょうか?
澤野先生
残念ながら、本当です。膵臓がんの診断は複数の検査結果を「総合的に判断する」必要があるため、医師の経験と知識に大きく左右されます。例えば、膵臓に小さな影が見えたとき、医師は「これはがんか良性か」を判断する必要があります。その判断基準が曖昧な場合、医師によって判断が異なることもあります。また、患者さんが「症状がないから大丈夫」と考えて定期フォローアップを受けないというケースもあります。つまり、見落としは「医師の能力不足」というより「膵臓がんという病気そのものが持つ難しさ」と「検査の限界」という医学的現実なのです。

