北斎に憧れたエミール・オルリク|ウィーン分離派のジャポニスム画家を解説

エミール・オルリク《雨の日》, Public domain, via Wikimedia Commons.

そんなオルリクは大の日本美術ファン。特に浮世絵に魅せられた彼は、実際に日本を訪れてその技法を学んだほどでした。

オルリクは浮世絵にならった木版画などで、ノスタルジックな江戸情緒と洗練されたデザイン感覚がバチッと融合させて表現。歌川広重イズムを受け継ぎつつ、ヨーロッパで培った配色センスが活かされているように思います。

歌川広重《名所江戸百景》「日本橋通一丁目略図」, Public domain, via Wikimedia Commons.

正直、オルリクの知名度はいまいち…といったところですが、日本との関わりが深いジャポニスムの画家です。ヨーロッパで日本美術が流行していた当時といえど、本当に来日を叶えた画家は稀有であり、その意味でも重要な人物ではないでしょうか?

この記事では、ウィーン分離派のなかで最も注目すべきジャポニスムの画家、エミール・オルリクについて解説していきます。

ジャポニスムの19世紀と若きエミール・オルリク

エミール・オルリク, Public domain, via Wikimedia Commons.

1870年、現在のチェコ・プラハに生まれたエミール・オルリク。彼が絵画学校で絵を学んでいた19世紀末、ヨーロッパでは「ジャポニスム」の波が到来していました。

ジャポニスムとは、フランスを中心とした「日本趣味」の流行のこと。日本の開国や万博への参加を背景に、大量の日本美術品がヨーロッパへ輸入され、芸術家たちはそのエキゾチックな魅力に夢中になっていました。

クロード・モネ《ラ・ジャポネーズ》, Public domain, via Wikimedia Commons.

彼らは日本の浮世絵や工芸品をコレクションするのみならず、自作にも日本らしさを取り入れていきます。特に有名なのが、印象派のモネやルノワール、ポスト印象派のファン・ゴッホなど。また、オルリクが参加していたウィーン分離派も日本美術に注目し、浮世絵の展覧会を開いたことがあります。

……と、ヨーロッパの芸術家たちは日本美術にすっかり魅了されていたのですが、「日本に行ってみよう!」と行動に移したのはひと握りでした。実は、ジャポニスムを代表する画家として喧伝されるモネ、ルノワール、ロートレック、ファン・ゴッホなどの巨匠は、日本を訪れたことがありません。

エミール・オルリク《富士山への巡礼》, Public domain, via Wikimedia Commons.

そんななか、エミール・オルリクは実際に来日を果たしました。1900年と1912年の2回にわたって日本を訪れ、浮世絵の作り方などを学んでヨーロッパに持ち帰って広めた画家です。

日本を訪れた数少ないジャポニスムの画家

エミール・オルリク《突風》, Public domain, via Wikimedia Commons.

日本美術への関心が高じて、オルリクは30歳を迎える1900年に初めて来日。東京に拠点を置きつつ、京都、奈良、日光、鎌倉、伊香保、会津若松などを旅しました。

エミール・オルリク《Japanischer Garten》, Public domain, via Wikimedia Commons.

当時のヨーロッパの人々が夢見ていたのは江戸時代の日本ですが、オルリクが来日したのは明治期に入り西欧化が叫ばれていた頃。近代化が進む日本に最初はガッカリしていたようで、「着いた当初は失望の連続だった。想像していた日本とはまったく違うのだ」(※)と語っています。

そういえば平成の頃、「日本に来た外国人は本物の侍や忍者がいないことにガッカリする」という噂がありましたが…オルリクもそんなショックを受けたのかも?

エミール・オルリク《Zwei Geishas》, Public domain, via Wikimedia Commons.

しかし時間が経つうちに見える景色が変わってきたらしく、「日本でもあちこちにこびりついている現代風の唾棄すべきニス(うわべ)を剥がしてみると、そこには想像を超えた美しいものがあることに気づくのだ」(※)とも。

「現代風の唾棄すべきニス」とは強い表現ですが、アイデンティティをかなぐり捨てるほどの強引な欧化のことでしょうか…。こうも痛烈に批判されると、いっそ清々しくも思えてきます。

エミール・オルリク《築地第一ホテルの前の人力車》, Public domain, via Wikimedia Commons.

オルリクはその言葉どおり、西欧化していく日本から「唾棄すべきニス」を剥がし、古き良き日本の風景を見出しました。和傘の重なり合う風景や人力車の車夫などを取り上げたオルリクの木版画は、現代の私たちから見てもノスタルジックな気分を掻き立てられる作品です。

配信元: イロハニアート

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