結婚してから卑屈めいた言動になった沙織。溝ができた彼女に沙織は、久しぶりの旅行を提案します。望がプランを決めてほしいと伝えると、彼女から長いプランメッセージが届きました。
望のプランで見えた新たな一面
望が行き先として決めたのは温泉地。私たちが初めて一緒に旅行をした場所だ。当時よりも格上の温泉ホテルに宿泊して、観光では彼女が行きたいという美術館や公園へ足を運んだ。
「美術館、一緒に入るの初めてだね」
「沙織はあんまり興味なさそうだったからさ」
「私がプランを立てると、食べ物ばっかりだもんね」
グルメ重視な私はいつも食べ歩きを提案していたが、望は観光や美術鑑賞をしたいという気持ちもあったらしい。20年間も付き合ったのに今さら。知らないことばかりだったことに気づかされた。
夜は部屋で料理を堪能。一緒にお酒を飲んでいると望は笑ってこう言った。
「今回はありがとう。私に任せるなんて言われてびっくりしたけど、楽しかったよ」
「こちらこそ、いつも私の提案ばっかりだったもんね」
「私、沙織と自分を勝手に比べて、卑屈になるようになっちゃってた」
望は自分の気持ちを話し始めてくれた。
彼女たちが出した答え
「本当は自分にだって良さがあると思いたかったし、きっとそうなのに、つい比べて負けてる部分にばかり目を向けちゃってさ」
「負けてるだなんてことないよ。望にしかない良さがあるもん」
「うん、そうだね。…ちょっと、気づくのが遅かったよ」
望は顔をあげて急にこう言った。
「お願いがあるんだけど。沙織、しばらく距離を置かせてほしいの」
「え?」
「沙織がそばにいるとどうしても比較しちゃう。子どものころからの習慣って簡単に変えられなくて。でも、本気で変わりたいの」
彼女は語る。長年こじらせてしまった卑屈さから脱却したい。そのためには、抱えている問題を私に頼らず解決したいのだと。新たなスタートを切ろうとする、力強い姿だ。
大切な推し友と距離を置くだなんて、本当は嫌だと言いたい。でも、優しい望にいつも甘えていた自覚があるからこそ、望の考えに応じたい気持ちも強かった。
「…わかった。じゃあ、これはファイナルツアーだね」
「うん」
これは悲しい疎遠ではない。未来に向けた別離なのだ。

