老眼が気になり始めたら──まず《歩き》と「姿勢」を見直してみてください。 50代、60代になると、体の変化を感じる場面が増えます。 その中でも多いのが「目」です。 「最近、文字が読みづらい」 「夕方になると急に見えなくなる」 「老眼鏡をかけても楽にならない」 こうした声は、珍しくありません。 老眼は、加齢によって水晶体の弾力が低下する生理的な変化です。 この点は事実です。 《歩き》で水晶体そのものが若返るわけではありません。 ただし、ここで一つ整理しておきたいことがあります。 多くの人が困っているのは、 「老眼という現象」そのものではありません。 老眼によって生活が不便になることです。 新聞が読みづらい。 本を開くのが億劫になる。 目が疲れて集中できない。 この「不便さ」は、老眼だけで説明できない場合があります。 ここで大事な話があります。 人は、緊張していると近くも見えにくくなります。 近くを見るとき、目の中では毛様体筋が働きます。 この動きは、自律神経のうち、副交感神経が関わっています。 ところが、 仕事に追われる。 時間に余裕がない。 肩や首に力が入っている。 こうした状態が続くと、交感神経が優位になります。 すると、 「ピントを寄せる」 「元に戻す」 この切り替えが鈍くなります。 このとき起きているのは、 老眼が急に進んだことではありません。 緊張によって、本来できていた調節が出にくくなっている状態です。 だから、 「今日は特に近くがつらい」 「夕方になると急に読めない」 という日が出てきます。 さらに、緊張は目の潤いにも影響します。 涙の分泌も自律神経の影響を受けているからです。 目が乾くと、像が安定しません。 文字がにじみます。 老眼鏡をかけても疲れやすくなります。 老眼に、 眼精疲労やドライアイが重なると、 不便さは一段と強くなります。 ここで、もう一つ重要な要素があります。 それが「姿勢」です。 前かがみ。 頭が前に出た姿勢。 肩をすくめたままの姿勢。 この姿勢は、首や肩を常に緊張させます。 呼吸が浅くなります。 自律神経の切り替えも起きにくくなります。 結果として、 ピント調節。 目の潤い。 視覚の処理。 これらが同時に不利になります。 目が壊れているわけではありません。 それでも「見えるが疲れる」ことが起きます。 では、ここでなぜ《歩き》が出てくるのでしょうか。 歩行は、 体を前に運ぶ動作です。 同時に、体を立て直す動作でもあります。 歩くと、 頭が体の真上に戻りやすくなります。 胸が開きます。 呼吸が深くなります。 視線が足元だけに固定されません。 《歩き》は、 緊張をほどきます。 姿勢を整えます。 自律神経の切り替えを助けます。 実際、生活習慣への介入によって、 眼精疲労や見えづらさといった 「目の自覚症状」が軽減したという報告もあります。 その中には、身体活動量の増加が含まれていました。 水晶体が若返ったわけではありません。 それでも、 見えづらさの体感が軽くなる余地はあります。 ここが大切なポイントです。 はっきりさせておきます。 《歩き》は老眼を治すものではありません。 ただし、 老眼に重なっている緊張や疲労を下ろし、 老眼がつらくなりすぎない体を整えることはできます。 若返りとは、年齢を戻すことではありません。 夕方でも文字が追える。 本を読むのが苦にならない。 そうした小さな快適さを取り戻すことです。 やることは難しくありません。 「スマートフォンを見ずに」歩きます。 「遠くを見て」歩きます。 「肩の力を抜いて」歩きます。 それだけで、 目にとって不利な条件が一つずつ外れていきます。 老眼は、体からのサインです。 同時に、体の使い方を整える合図でもあります。 《歩き》と「姿勢」を味方につけることで、 50代、60代からの毎日は、 もう少し穏やかで、軽やかになります。
[参考文献] 【1】『gilmartin b.』「眼の調節機能における自律神経の関与」《ophthalmic & physiological optics》2004年(pubmed id:15534754) 目のピント調節(毛様体筋の働き)が、自律神経、とくに副交感神経の支配を受けていることを整理した総説論文。 緊張状態や交感神経優位の状態で、近くを見る力が低下しやすくなる生理学的背景を示している。
【2】『stapleton f, ほか』「tfos dews ii ドライアイ疫学報告」《the ocular surface》2017年(pubmed id:26886135) ドライアイの有病率、危険因子、背景要因を包括的にまとめた国際的報告。 ストレス、自律神経、加齢、生活習慣と眼表面環境との関係を示し、 緊張状態で見えづらさが増す要因を説明する根拠となる。
【3】『kawashima m, ほか』「生活習慣介入とオフィスワーカーの眼症状改善との関連」《journal of occupational health》2018年(pubmed id:29618677)(doi:10.1539/joh.2017-0191-oa) 生活習慣への介入により、眼精疲労や見えづらさなどの眼の自覚症状が有意に改善したことを示した研究。 介入内容には身体活動量の増加が含まれており、 歩行などの活動が「老眼のつらさ」に影響しうることを示す間接的エビデンス。
【4】『lee jh, ほか』「前方頭位姿勢が視覚疲労および視覚的不快感に及ぼす影響」《journal of physical therapy science》2015年(pubmed id:25992291) 頭が前に突き出た姿勢(前方頭位)と、眼精疲労・視覚的不快感との関連を検討した研究。 姿勢の崩れが「見えるが疲れる」「集中しづらい」といった症状につながることを示している。
(上野 由理/美脚専門家)

