
長月天音によるシリーズ累計80万部突破のベストセラー小説シリーズを実写化した映画「ほどなく、お別れです」が、2月6日(金)に公開する。葬儀会社を舞台に、故人と遺族の想いを繋ぐ物語で、複雑な感情を抱える兄妹を演じたのが西垣匠と久保史緒里だ。西垣と久保が、役を通して見つめた家族の形、そして「死」を意識したからこそ見えてきた「生きる」ことへの想いを語った。
■対照的な兄妹役、ベテラン俳優陣と作り上げた「長野家」の絆
舞台は、葬儀会社「坂東会館」。大学生の清水美空(浜辺美波)は、ひょんなことからインターンとなり、「とにかく遺族のために」と葬儀にまい進する葬祭プランナー・漆原礼二(目黒蓮)のもと、亡くなった人と遺族の「最後の時間」に立ち会い「最高の葬儀」を目指していく姿を描く。西垣と久保は、不慮の事故で母親を亡くしてしまい、失望のどん底にいる兄妹を演じる。
――久保さんが今回演じられた役は、少し控えめで、思っていることを表に出さないという人物像だったかと思います。実際に台本を読まれて、役に入るにあたってどのようなイメージを持たれましたか?
久保史緒里(以下、久保):長野家は、お父さんが離れて暮らしていることもあって、私が演じた玲奈自身も「家族という形」をすごく気にしながら生きてきたと思うんです。だからこそ、離れて暮らすお父さんに対しても、お母さんに対しても、そしてお父さんに対してわだかまりのあるお兄ちゃん(翔一)のことも、全員を愛している「慈愛に満ちた人物」なのだろうなと思いました。そう感じた背景には、野波(麻帆)さんが演じられたお母さんがものすごく愛情深い人だったことがあります。娘である玲奈もその母に似た部分があるのだろうと考えながら演じました。
――周囲とのバランスを取ったり、相手の気持ちを察したりするがゆえの控えめさがある一方で、お母さんと共通する「芯の強さ」もしっかりと伝わってきました。強さを表に出さない役作りについて、三木孝浩監督とはどのようなお話をされましたか?
久保:そうですね、お兄ちゃんとの「家族に対する見え方の違い」は明確にあるべきだと思っていました。それはお兄ちゃんが悪いわけではないのですが…。撮影前に野波さんにお会いできたことで、「この母あっての玲奈であってほしい」という監督や皆さんの思いが、私自身の考えとも重なり、自然と役に落とし込むことができました。
――西垣さんが演じられた翔一は、玲奈とは対照的に感情をぶつける役どころでした。短い時間の中で揺れ動く感情がスムーズに表現されていましたが、どのような準備をされましたか?
西垣匠(以下、西垣):まず外見について、監督からは「雑な茶髪にしてほしい」というオーダーがありました。ムラがあったり、金髪っぽくなっていたり、染め残しの黒があったり…。それを足がかりに、どんな生活をしているのだろうという想像を働かせて役を作っていきました。
翔一は僕自身とはタイプが違う、感情を表に出しがちなキャラクターだったので、「外側から埋めていく」ことで内側を作っていきました。台本を読んでセリフから気持ちを考えることももちろんですが、今回はそれよりも「こういう人なら、こういう動きをするだろう」「こういう言葉遣いになるだろう」というところから役作りを進めていきました。
――それぞれの対照的なキャラクターが「長野家」という1つの家族として形作られていましたね。お父さん役の原田泰造さん、お母さん役の野波麻帆さんとの共演はいかがでしたか?
久保:私はお母さんとの生前のシーンがあったのですが、野波さんからは「この母あっての娘」というつながりを強く感じました。また、泰造さんとは山でのシーンが初対面だったのですが、一目見た瞬間に「あ、お父さんだ」と感じたんです。玲奈と翔一にとっては久しぶりの再会なのですが、それまで空いていた時間を感じさせないほど、そこに「父親」がいました。野波さんの時もそうでしたが、お2人とも一瞬で家族だと確信させてくれる存在感がありました。
西垣:僕は野波さんとは、劇中の写真撮影のシーンくらいしか直接的なやり取りはなかったのですが、そこでも軽くエチュードのように「こんな感じで」と撮影が進み、空気感を作ってくださいました。泰造さん演じる「根は優しくて少し気が弱いお父さん」と、野波さん演じる「優しいけれどチャキチャキしたお母さん」が、本当にぴったりで。お2人の大きな胸を借りるつもりでお芝居をさせていただきました。
■「死」について考えることは、「生きているうちに何をすべきか」を考えること
――翔一がお父さんと再会するシーンでは、それまでの「怒り」の対象だった父に対して、真実を知り、気持ちが変わっていく複雑な様子が絶妙な表情で描かれていました。あのシーンにはどのようなマインドで臨まれましたか?
西垣:車から降りてパッと目が合った瞬間、なぜか自分でも分からないほど泣きそうになってしまったんです。それを必死に我慢していました。感情が溢れてきて…簡単に言えば、すごく気まずくて。その中に「会いたかった」と「会いたくなかった」が半分ずつ混ざっているような、そんな感情だったと思います。
――ドキュメンタリーのような緊張感がある名シーンでした。お2人は、この物語の「核」はどこにあると感じましたか?
久保:長野家で言えば、お兄ちゃんはお父さんに対して複雑な感情を抱いてきました。でも、若くして父親代わりの立場を担わざるを得なかったお兄ちゃんにとって、その感情の矛先がお父さんであったことは、ある意味でお父さんにとっても本望だったのではないかとも思います。
この作品には「旅立ち」というテーマがありますが、会話もできないし、正解も聞けなくなってしまった後でも、残された言葉や品物から伝わってくるものがある。会話はできなくても、これから先も知り続けていく感情があるのだと、この作品を通して強く感じました。
西垣:現実の世界では、いなくなってしまった人と会話はできません。フィクションだからこそ描けることですが、死は誰にでも平等に訪れます。この作品を見て感じたのは、「いなくなってからどうしよう」と悩むのではなく、後悔を少しでも軽くするために「生きているうちに大事なことは伝えなければならない」ということです。
明日誰かがいなくなるかもしれないなんて、普段はみんな実感を持たずに生きていると思うんです。でも、この作品は「死」について考える以上に、「生きているうちに何をすべきか」を伝えてくれる作品だと思いました。
――まさに、未来につながるお話ですね。お2人自身は、日々の生活の中で「生きている」と実感する瞬間はありますか?
久保: 私は…ご飯を食べている時ですね。
西垣:僕も全く同じことを思いました(笑)。やっぱり美味しいご飯を食べている時が1番「生きていてよかったな」と思いますね。
久保:西垣さんは他にありますか?
西垣:僕は少しひねくれているかもしれませんが、生まれてから1度も「生きたい」と強く思ったことがないんです。人が生きているのは「死ぬ理由がないから」だと思っています。「死にたい」と思わないことが、「生きている」ということなのかなと。
人が心から「生きたい」と思うのは、死を目前にした時なのかもしれません。だからこそ、当たり前になっている「生」の中で、大切なことは伝えておかなければならないと思っています。…まあ、結局はご飯を食べている時が1番ですけど(笑)。
久保:私は逆に、夜などにふと「生きたい!」と強く思う瞬間があるんです。実は今年、「死ぬまでにやりたいことリスト100」を書いてみたのですが、20個くらいで止まってしまって。1週間かけて書き出した時に、「これを達成するまでは死ねない、生きたい」と目先のことに必死になって、逆に苦しくなったりもしました。置かれた環境や人によって「生きる」ことへの考え方は違いますが、私はそうやって何かを渇望している時に「生きている」と感じますね。
西垣:20個も出せるのはすごいです。僕は物欲も食へのこだわりもそこまで強くないので、5個も出ないかもしれません。僕の「やりたいこと」は「明日、ラーメンを食べたい」とか、その程度のすぐ叶えられることばかりです(笑)。
■大切な人との「いつか」を想い、がむしゃらに突き進む2026年へ
――現状を大切に、1日1日を生きるということですね。この作品を経て、「死」に対する考え方に変化はありましたか?
久保:私は昔から、自分や周りの人の「死」が漠然と怖かったんです。子供の頃、お母さんがご飯を作っている姿を見るだけで「お母さんが死んじゃったらどうしよう」と泣いてしまうような子でした。大切な人を亡くした後の世界が全く想像できなかったから。でも、この映画はその「先」を丁寧に描いています。それを見て、それでも生きていかなければならない現実を知り、漠然とした恐怖心が少し和らいだような気がしました。
西垣:僕はこれまで、死というものをどこか自分とは無関係なものだと捉えていました。でもこの作品に関わり、完成したものを見た時に、初めて親のことを深く考えました。いつか必ず訪れる別れを想像して、純粋に「寂しいな」と思ったんです。自分は上京しているので、親と会えるのは年に数回です。だから、次に会う時はいつもより優しくしようとか、素っ気ない態度はやめようとか、ご飯でも奢ろうかな、なんて自然と思うようになりました。
久保:「実家に帰ろう」って思ったよね。親にあと何回会えるんだろうって、すごく考えました。
――お2人の誠実な想いが伝わってきます。最後に、2026年はどのような年にしていきたいですか?
久保:2026年は「がむしゃらに頑張る年」にしたいです。今までずっと慣れ親しんだ環境(乃木坂46)にいたので、そこから1歩踏み出す年になると思います。私は新しい環境が苦手で緊張しやすいタイプなのですが、構えすぎずに「新しい環境も楽しい」と信じて、がむしゃらに突き進んでいきたいです。
西垣:僕はやることは変わりません。これからも役と真摯に向き合い、演じ、完成したものを見て自分の理想とのギャップを知る。そして、その差を埋めるために何をすべきかをひたすら繰り返すだけだと思っています。予習と復習、その反復作業の質をどこまで高められるか。それが1番の近道だと信じて、2026年も1つ1つの役に突き詰めて取り組んでいきたいです。
◆取材・文=磯部正和/撮影=梁瀬玉実/スタイリスト=石橋修一(西垣)、鬼束香奈子(久保)/ヘア&メーク=細野裕之(西垣)、村上綾(久保)

