「若さはない。でも工夫ができる」大江千里さんがNYで向き合った老いと孤独、そして愛犬との別れ

「若さはない。でも工夫ができる」大江千里さんがNYで向き合った老いと孤独、そして愛犬との別れ

愛犬との別れ、その思いは違う形で繋がりを作っていく。今はそういうふうに思っています

愛犬との別れ、その思いは違う形で繋がりを作っていく。今はそういうふうに思っています
愛犬との別れ、その思いは違う形で繋がりを作っていく。今はそういうふうに思っています

――17年前に共に渡米した相棒で家族で娘だったダックスフントのぴーすを亡くしました。深い喪失感に襲われながらも、森山さんとのアルバム作りを通して前を向いていく様子もつぶさに描かれています。

大江:僕はブルックリンでけっこう孤独にサバイブしていて、良子さんと共同プロデューサーのジュンコさんと3人でいたとき、ある歌詞の話からだったか、「僕の唯一の取り柄はお金と名声だ」と言ったんです。するとジュンコさんが、「そんなふうに思ってたんですか。こんなに優しくて素敵な才能をいっぱい持ってるのに。ごめんなさい、NY風に今ハグさせてもらってもいいですか?」と、泣きながらハグしてくれたことがあって。

それから、ぴーすが死んで僕も生きる意味がなくなったと良子さんに伝えたとき、良子さんはみるみる目に涙をためて、「素晴らしい作品を作っても、喜びを分かち合えないなら作る意味なんてないのよ。あなたが存在するから作品が生まれて、そこにあなたがいないと、作ったものの意味が全くない」と断言されたんです。

そう言われたときに、もう自分の中の思考の全てが入れ替わるぐらい、ああ……自分はなんて無責任で失礼な、自己愛に満ちた態度をとったんだろう、と思いました。その会話があってから、3人の中で何かが深まり、僕は、生きる死ぬを語る時間より、無我夢中で作品の中で渾身の言葉を紡ぎ出し、良子さんから溢れるエネルギーとそれを受けたときの自分の中の衝動を曲のカケラにしていきました。

――ご本には、グリーフケアに定期的に通われたことなども書かれていますが、ペットとの別れやペットロスは、動物と暮らす多くの人が直面する問題でもあります。

大江:ぴーすは僕の中で、おそらく言葉以上で理解力を持っていた存在。ペットの死は、その関係性によっては、人との別れと同じかそれ以上に辛いと言っても過言ではないですよね。それだけに、ペットロスにつける薬、効く薬というのはなかなかないんです。

ペットロスからの回復には様々な形がありますが、新しい出会いが心の支えとなる方もいらっしゃいます。あるいは、犬に関わる仕事で、例えば里親になって育てて、次のかたに渡すということをデュアルワークでやっていくのもフューチャーセレクションの1つとしてあると思います。

だけど僕は、お一人様をあえて選んで、ひとり宇宙ステーション的な感じでものを書いたり、音楽を奏でたり、スキルアップをしていこうと思ってて。「お前が最後の相棒~」じゃないけど(笑)、摩天楼のマンハッタンでtogetherみたいな、演歌な2人がいてもいいんじゃないかと思うし、それを僕はアメリカの社会で還元し、犬への思いは違う形で繋がりを作っていく。セオリー的にはそういうふうに今は考えています。

"3代目大江千里"としての未来について。ひたひたと燃える闘志を次の作品に灯したい


――目下、べースとドラムのミュージシャンと組んだSENRI OE TRIOのジャズライブと並行して、ソロピアノのニューイヤーコンサートツアー中です。

大江:ソロでは、ほこりをかぶっていたポップ時代の曲を勇敢にも出してきて、原曲を忠実に再現しながらジャズコードを用いて、多層的なイメージを融合させるということをやっています。ジャズミーツポップが1段階レベルアップした様式を楽しんでいただけると思いますね。で、TRIOのブルーノートの方は、ポップ時代に書いた「REAL」をクイーンみたいな不思議で典雅なロックジャズに、「向こうみずな瞳」はキューティーなテクノジャズにアレンジ。それから、「mohawked(モウホークド=モヒカン)」っていうタイトルで、オールドスクールなスウィンギンジャズを完全ブランニューで書いたので、それもお披露目します。

――素材をたくさんお持ちだから、いろんな実験ができますね。

大江:僕はホントにラッキーで、ジャンルが違う世界を両方奏でるという稀有なことができていて。しかも、それを受け取ったお客さんの驚いた顔や、意外に嬉しそうな様子を直に見られるというなかなかすごいところにいます。そこで見えている景色をさらなるエナジーにして、また次の作品を作る。

ポップの頃は1代目大江千里、ジャズは2代目大江千里で、今、いろんなものがマージ(融合)した3代目ぐらいになりつつあります。でも歌舞伎と違うのは、1代目も2代目も3代目も同じ中身だというからくりがあるところで(笑)。いろんなものが今、紐解き、答え合わせの時期にもなってきている感じがします。

――最後に、この先のご自身への期待も含めて、今年の抱負をお聞かせください。

大江:僕は今、全ての生活を自分で構築し、足し算引き算して、何か新しいアートのジャンルを作って発信していこうと思い始めてて、その中心にジャズというものがキーワードとしてあります。ジャンルをまたいで、過去作も注意深く落ち葉拾いしたりと、さまざまな作り方を試しながらそれをやっていくというのがひとつ。

それと、僕はもうホントに頑張っちゃうタイプなんで、腹八分目で食欲は抑え、毎日の歩きも1万歩を超えないように気を付けるっていう、ほどほどで止める賢さを持つというのが今年のテーマ。それを密かな武器として握りしめながら、ひたひたと燃え続ける闘志を次の作品に灯して、アルバムという形できちんと勝負したいなと思っています。

インタビュー・文=浜野雪江/撮影=中村 功

【プロフィール】
大江千里
1960年9月6日生まれ。1983年、関西学院大学在学中にシンガーソングライターとしてデビュー。「格好悪いふられ方」「Rain」「夏の決心」など多数のヒット曲を生み、2007年までに45枚のシングルと18枚のアルバムを発表。NHK「トップランナー」MCや俳優としても活躍。2008年に愛犬とともに渡米し、ニューヨークの The New School でジャズを学ぶ。2012年卒業後、自らCEOを務める PND RECORDS からジャズアルバム『Boys Mature Slow』をリリース、本格的にジャズピアニストとして活動開始。以降、『Spooky Hotel』『Collective Scribble』『Answer July』『Boys&Girls』『Hmmm』『Letter to N.Y.』『Class of ‘88』と7枚のオリジナルジャズアルバムを発表。2024年には森山良子の日本語ジャズアルバム『Life Is Beautiful』をプロデュース。Sony Masterworks と契約し、日本や全米でのライブのほか、南米、ヨーロッパ、香港にも活躍の場を広げる。著書も多く、本作はアメリカに渡ってから5冊目の本になる。現在ブルックリン在住、音楽の新しい届け方に挑戦し続けている。
大江千里
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配信元: レタスクラブ

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