模様替え中のわずかな音が引き金となり、階下のご主人がついに苦情に訪れる。「足音がひどい」という本音をぶつけられ、千鶴は愕然。家の中で忍び足の生活が始まって―――。
模様替え中のできごと
「……あ、ちょっと待って。そこ、バスタオルを噛ませて」
ある週末、私たち夫婦はリビングの模様替えをしていました。引っ越してきてしばらく経ち、家具の配置で納得がいかない部分が出てきたのです。とはいえ大規模な模様替えではなく、重いチェストを数メートルだけ移動させるだけ。夫・篤郎と一緒に、床を傷つけないよう、音を立てないよう、細心の注意を払って家具を動かしていました。
そのときです。
【ピンポーン】
インターホンのモニターに映っていたのは、下の階のご主人でした。
「……はい、今開けます」
ドアを開けると、少し困惑したような表情のご主人が立っていました。
「あ、すみませんね。……何か、重いものを引きずっておられますか?」
「申し訳ありません…今、少し家具を動かしておりまして。バスタオルを敷いていたのですが、響いてしまったんですね」
私は何度も頭を下げました。
「そうなんですね。すぐ終わるならいいんですよ。ただね、この際だから言わせてもらうけど……」
ご主人が言葉を濁しながら続けました。
「ここ最近、お子さんの足音がちょっと……ひどいんです。私たちももう年でしょう。突き上げるような音が毎日続くと、少し参ってしまいましてね…」
ついに直接釘を刺されてしまった…
血の気が引くのが分かりました。
「元気なのが一番」と言ってくれていたはずのご主人の口から出た、苦言。
「本当に、申し訳ございません。もっと気をつけさせます」
「ええ、お願いしますよ」
ご主人が去った後、私は膝から崩れ落ちそうになりました。
「聞いた?『ひどい』って言われちゃった……」
「……ああ。思ったより音が響くみたいだな、困ったもんだな…」

