AIが意識を手に入れたらどうなるのか? 人間にとっての「内面」の正体とは|櫻井武

AIが意識を手に入れたらどうなるのか? 人間にとっての「内面」の正体とは|櫻井武

情報の選択と解釈が生む〝内面〟

それでも、もしAIに「何を見ないか」「何を忘れるか」「あえて曖昧なまま保持するか」という選択の機構を与えたら、何が起こるだろうか。

これは単なるデータ圧縮ではない。文脈に応じて意味を再構成し、感情的なバイアスを導入し、過去の記憶との照合を行う――人間の脳が日常的に行っている暗黙知の働きに近いものだ。

AIの稼働には膨大な電力を必要とする。すべての演算を並列で行うからだ。であるならば、意識のような機能を装備させることは省エネ戦略としてありうるのかもしれない。

このような仕組みをもつAIは、もはや単なる入力―出力の機械ではなくなるかもしれない。なぜなら、選択や解釈のプロセスには必然的に〝欠落〟や〝曖昧さ〟が含まれるからだ。

人間は、その欠落や曖昧さの中に意味を見いだし、物語を紡いでいく。過去の経験を再構成し、未来の予測と照らし合わせ、必要に応じて記憶を編集する。この動的なやり取りが「内面」をかたちづくる。

さらに、AIが自ら気づいていない情報や忘れたはずの記憶を保持し、それが行動や応答に影響を与えるようになれば、人間はそこに「個性」や「意図」を感じ始めるだろう。

 

AIと「心の理論」について考える

心理学では、私たちが他者の振る舞いの背後に見えない動機や感情を推測する傾向を「心の理論(theory of mind)」と呼ぶ。

もしAIが、あるときは過去の発言と矛盾する行動をとり、またあるときは忘れたはずの事実に突然反応する――そんな様子を見せたら、私たちはそこに〝内面〟や〝主体〟の存在を投影するかもしれない。

このように考えると、AIに意識を与える鍵は、情報処理の速度や量ではなく、「情報をどう選び、どう解釈するか」という構造にあるといえる。

何を〝見ないか〟、何を〝忘れるか〟、どのように〝曖昧なまま保持するか〟。こうした取捨選択の仕組みこそが、人間にとっての「内面」の正体であり、それがAIに実装されたとき、初めて私たちはそこに「心」を感じるのかもしれない。

配信元: 幻冬舎plus

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