風間杜夫の人間的な分厚さは、他の追随を許さない【てれびのスキマ】

風間杜夫の人間的な分厚さは、他の追随を許さない【てれびのスキマ】

■四半世紀以上、精力的に取り組んでいる落語

今年の夏にも桂こけ枝と「二人会」を開催するなど精力的に落語に取り組んでいる風間杜夫。役者が落語の真似事をしてみました、というようなレベルでは決してない。何しろ、もう四半世紀以上続けているのだ。

きっかけは、1996年の舞台「すててこてこてこ」で落語家を演じたこと。その後、立川談春の独演会に誘われ、人前で初めて落語を披露した。このとき、それを聴いていた柳家花緑に褒められ“その気”になってのめりこんだ。もともと、子どもの頃から落語は好きでよく聴いていた。

だが、一度、落語を聴くのをやめていた時期がある。なぜなら、つかこうへいから「落語やってんじゃねえんだっ」と叱責されたことがあるからだ(「ヨミドクター」2011年7月19日)。長台詞のときにどうしても落語調になってしまっていた。だから、好きだった寄席通いをやめた。

■つかこうへいの存在

そう、風間杜夫の役者人生は、つかこうへいの存在を抜きに語れない。風間は小学2年生のときに、「東童」に入団。すぐに売れ5年生の頃には、学校に通えないほど忙しかった。だが、映画で共演した米倉斉加年に「君は将来役者になるつもりなら、児童劇団はすぐやめて学校で勉強しなさい」(「婦人公論」2024年3月号)と言われたこともあり、一旦辞めた。

高校時代、早稲田大学の「自由舞台」の芝居を見て役者熱が再燃し、「自由舞台」に入るため、一浪して早大に進学した。だが、時代は安保闘争真っ只中。満足に活動できず、その後、劇団「俳優小劇場」の養成所に入るが、ここでも“内紛”が起こり、同じ養成所生だった斉木しげる、きたろう、大竹まことらと劇団「表現劇場」を結成した。のちにシティボーイズを結成する3人とは、特に仲がよく、ヒーローショーのバイトで全国を周ったりもしていた。

■2人の“師弟”関係

そんな風にバイトで食いつなぎながらも「役者で食べていけるようにならなきゃ意味がない」(「女性セブン」2024年2月15日号)と宣材用の写真を撮ってあちこちに配っていた。結果、「日活ロマンポルノ」への出演を機に仕事が徐々に増えていった。だが、肝心の劇団の方では、限界を感じていた。そんなときに出会ったのが、つかこうへいだった。

風間は劇団「暫」の公演に誘われた。「暫」はかつてつかこうへいが参加していた劇団。つか脚本の「出発」をやるという。その稽古中、いきなりドアが開いたかと思ったら、そこに針金のように痩せた男が立っていた。それがつかこうへいだった。もうその劇団から離れていたため、演出を担当しているわけではなかったが、稽古を見ていたつかは、初対面の風間に向かってこう言った。

「お前の芝居には垢がついている。俺のところでわらじを脱いで、垢を落としていけ」(「週刊現代」2015年8月8日号)

そこから2人の“師弟”関係が始まった。年齢はつかがわずか1歳年上なだけ。しかし、「お前の正義感や甘い幼児性もいいよ。でも、その卑屈なところや狂気じみたところとか、全部芝居に出さなきゃダメだ。一色になるな」(「婦人公論」前出)、「お前らが芝居できないのはゴールデン街なんかで飲んでるからだ!」(「ひととき」2024年1月号)などと理不尽な言いがかりも含めて厳しく指導された。

■つか脚本で大ブレイク

それでもついていけたのは、その演出が凄まじかったからだ。つかは、役者をよく観察しその特性に合うセリフを当てていく。だから、役者が魅力的に見えてくる。「狂気の風間というか、エキセントリック・ハイテンションという色をつかさんにつくってもらった。 殻を破ってくれ、僕の中にあるいろんなものをあの人が引き出してくれた」(「週刊ポスト」2016年4月15日号)という。

そうして、つか脚本の映画「蒲田行進曲」(1982年)で銀四郎を演じ、風間は大ブレイクを果たすのだ。まさに、つかと風間は、銀ちゃんとヤスの関係性そのものだったという(「ひととき」前出)。なんでそこまで言われなきゃいけないんだと憤り、木刀で殴り殺す夢も何度も見た。一方で、「つかさん、かっこいい!」と思わずにはいられない作品をつくってくれる。愛憎が共存していたのだ。

つかは「役者がつまらないのは、そいつが人間としてつまらないからだ」とよく言っていた(「週刊ポスト」前出)。風間の座右の銘は森繁久彌の著書のタイトルである「品格と色気と哀愁と」。落語を始めとして様々なことに挑戦している風間の人間的な分厚さは他の追随を許さない。

文=てれびのスキマ
1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌やWEBでテレビに関する連載多数。著書に「1989年のテレビっ子」、「タモリ学」など。近著に「王者の挑戦 『少年ジャンプ+』の10年戦記」

※『月刊ザテレビジョン』2025年10月号

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