■依存症レベルで没頭するゲーム、そして芝居
吉沢亮の趣味はゲーム。自宅には、「ゲーミングルーム」があり、ゲーム専用のデスクを作り、PCには、モニターを2枚接続している。仕事がない日は、「朝から朝まで」やっているという。朝から「夜」までの誤植ではない。「朝」までだ。
親友の北村匠海は「もうゲームばっかりですよ。結構マニアックな、彼1人だけしかやってないゲームとか結構ありましたけど。皆さんが思ってるより、相当ゲーム好きですね。めっちゃうるさいっすね。口数が3倍ぐらいに増えてるイメージ。ずっと叫んでます、何かを」(「日曜日の初耳学」2025年6月1日TBS系)と証言している。家にこもっているのを見かねて外へ連れ出すも、出かけた先はゲーム機材の販売店だったというほどだ。
“依存症”レベルでゲームに没頭する吉沢だが、もうひとつ没頭しているのが、芝居だ。北村は「彼はもう芝居に生き芝居に死ぬ人でしょうから。僕が知りうる中で一番芝居バカなのは彼なので。芝居か、他はもうダラっとすることしか考えてない、すごく変な人」(同)と評している。
■同世代の俳優への嫉妬や悔しさ
吉沢は男ばかりの4人兄弟の次男。その中で飛び抜けて美しい顔立ちをしていたため、彼が15歳のときに母親が「アミューズ全国オーディション2009 THE PUSH!マン―」に応募した。そこで審査員特別賞(Right-on賞)を受賞し、芸能界デビュー。
2011年には「仮面ライダーフォーゼ」(テレビ朝日系)で仮面ライダーメテオ/朔田流星役に抜てきされて注目を浴びた。傍から見ると順風満帆。けれど本人の意識は違った。福士蒼汰、山崎賢人、菅田将暉……周りに10代のうちから主役を張り、ブレイクを果たした同世代の俳優仲間がたくさんいた。
しかし、自分にはオファーが来ない。仕事はオーディションで勝ち取るしかなかったし、そのオーディションも10回受けても1回受かるかどうかだった。だから、同世代の俳優への嫉妬、悔しさ、もっとやれるのにという思いをずっと抱えていた。
■当時の李監督には「見向きもされなかった」
一方で、評価されるのは、まずその端正な顔立ち。いつしか「国宝級イケメン」などと呼ばれるようになった。「結局そういう部分でしか見られてないんじゃないかっていう、ある種のコンプレックスじゃないですけど、役者として芝居で見られてないみたいな悔しさ。俺もっとできるのに、なんでそんな外見だけのこと言われなきゃいけないんだみたいなのはすっごいあって。そういう自分の外見に対する世間のイメージみたいなものに抗いたい時期はすごいありました」(同)と振り返る。
だから役作りで無駄に太ったり、芋っぽく見せるようなこともした。世間への反動もあってか、鬱展開な作品が大好きになり、「暗い役やりたくてしょうがない時期」もあったという(「スイッチインタビュー」2025年6月20日NHK Eテレ)。
そんな彼が「内側のドロドロしたものをすごい生々しく描く」作風に憧れて21歳のとき、李相日監督の映画「怒り」(2016年)のオーディションにも参加したが、そのときは「見向きもされなかった」(同)という。この頃の彼は「こういう芝居をしてみたい」という思いに溢れ、我が強かった時期だった(「GQ JAPAN」2025年6月3日)。
■「怒り」オーディションから10年…「国宝」主演
だがその後、朝ドラ「なつぞら」(2019年)、大河ドラマ「青天を衝(つ)け」(2021年共にNHK総合ほか)を始めとする様々な経験を経て、映画やドラマは「総合芸術」だと気づいた。「自分の役は自分がいちばん理解していると思っていたけど、作品全体のバランスもあるし、監督の言うことには深い意図があるんだな」(同)と作品を俯瞰して見られるようになった。
そして「怒り」のオーディションから約10年、ついに李相日監督の映画「国宝」での主演が叶ったのだ。だが、この仕事は過酷を極めた。何しろ、「稀代の女形」という役柄。歌舞伎を完璧に演じなければならない。1年半近くにわたる稽古をストイックにこなし撮影に臨んだ。
すると奇妙なことが起こった。「21歳の頃に引き戻された」感覚があったのだ。「全体のバランスうんぬんではなく、自分の役だけに集中しろとずっと言われているような感覚がありました。頭の中で計算したりせず、自分自身をひたすらに追い込む以外に、役に入る方法がなかった」(同)という。
ただ我が強いだけではなく、俯瞰した視点があるからこそ、自分の役を追求することができたに違いない。そうして「芝居に生き芝居に死ぬ人」。それを体現する“国宝級”の演技を生み出したのだ。
文=てれびのスキマ
1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌やWEBでテレビに関する連載多数。著書に「1989年のテレビっ子」、「タモリ学」など。近著に「王者の挑戦 『少年ジャンプ+』の10年戦記」
※山崎賢人の「崎」はタツサキが正式表記
※『月刊ザテレビジョン』2025年9月号

