自宅で要介護者を介護していると、ベッドから車椅子への移乗が毎日の大きな課題です。身体を持ち上げて移動させる動作は、介護される側とする側の双方にとって負担が大きく、方法を間違えると介助者は腰痛を招き、要介護者も転落やケガのリスクがあります。本記事では、自宅介護におけるベッド移乗の基本、具体的な手順と注意点、さらに移乗を助ける補助具と介護保険での利用方法について解説します。

監修社会福祉士:
小田村 悠希(社会福祉士)
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
自宅介護でのベッド移乗とは

ベッド移乗とは何ですか?
ベッド移乗とは、要介護者がベッドから車椅子やトイレ、椅子などへ移動するときに行う乗り移りの動作のことです。移乗は要介護者が日常生活を送るうえで欠かせない動作であり、介助を受けて安全に移乗できれば、外出や離床の機会が増えて生活の範囲を広げることにつながります。介助方法には、要介護者本人の残存能力を活かし一部だけ支援する一部介助と、病気やまひなどで自力で動けない方を全面的に支える全介助があります。要介護者の身体状態や場面に応じて、負担の少ない適切な方法で移乗を行うことが大切です。
ベッド移乗が必要な身体の状態を教えてください
基本的に自力で立ち上がったり歩いたりできない方は、ベッドからほかの場所へ移動する際に介助が必要です。
具体的には、脳卒中の後遺症などによる麻痺がある方、足腰の筋力低下で下肢に力が入らない方、骨折や痛みで立位保持が困難な方などです。また、体格が大きく自力移動が難しい高齢の方も該当します。このような方々は車椅子や介護ベッドを利用する場面で移乗介助が必要です。
なお、軽度であっても関節の変形や痛みでベッドから立ち上がれない場合は、部分的な支えが必要になるでしょう。いずれにせよ安全第一で、無理せず介助や補助具を使って移乗することが重要です。
寝たきりの自宅介護でもベッド移乗は可能ですか?
はい、寝たきりの要介護者でも適切な介助や機器を使えば移乗は可能です。ご本人がまったく自力で動けない場合は全介助による移乗となり、介助者の肉体的負担が大きくなります。そのため、電動リフト(移乗用リフト)を使用して吊り上げる方法が有効です。
移乗用リフトはハンモック状のシートで要介護者を抱えてベッドから車椅子などへ移動できる福祉用具で、介助者の腰痛予防や転落事故防止にも役立ちます。リフトがない場合でも、介助者が二人がかりで抱きかかえる方法や、スライディングシート(滑るシート)を用いて体位をずらす方法などで対応できます。ただし、寝たきり高齢の方は筋力低下や起立性低血圧があるため、急に起こすとめまいや骨への負担がかかることがある点に注意が必要です。移乗の前には体調確認と声かけを行い、ゆっくり慎重に移乗動作を行いましょう。
ベッド移乗の手順と注意点

車椅子からベッドに移乗する際の手順を教えてください
車椅子からベッドへ移乗する基本の手順は次のとおりです。
車椅子をベッド横に近づけ、座面の高さをベッドと同じくらいに調節します
要介護者を車椅子で座ったままできるだけ前方に腰を移動させます
要介護者の上半身を前に倒し、重心を前方へ、そしてベッド側に移すよう促します
要介護者をベッドに深く腰かけさせたら、移乗ボードを引き抜き、姿勢を調整します
以上が基本手順です。要介護者の足先がフットレストにぶつからないようにすること、頭部をベッドの縁で打たないように支えることなどがポイントです。スライディングボードを用いれば介助者が抱え上げる負担を軽減できますが、要介護者に座位保持力がある程度必要です。状況に応じて適切な方法を選択してください。
車椅子からベッドに移乗する際に介護者が気を付けることはありますか?
車椅子からベッドへの移乗では、主に要介護者の足元のケガに注意しましょう。車椅子のフットサポート付近は構造物が多く、皮膚の薄い高齢の方の足が少しぶつかっただけでも内出血や皮膚剥離を起こすことがあります。移乗前にフットサポートを上げるか、布やクッションで覆って直接当たらないようにします。
また、介助者自身は中腰で抱え込む姿勢になりがちなので、膝を曲げて腰を落とし、背筋を伸ばしたまま支えるよう意識します。前かがみで腰に負担をかけないよう意識することで、要介護者を安全に持ち上げつつ自分の腰も守ることができます。
ベッドから車椅子に移乗する際の手順を教えてください
ベッドから車椅子へ移乗する手順も基本は先ほどと似ていますが、要介護者をベッド上で一度座らせて立たせる工程が加わります。
車椅子をベッドの横に寄せ高さを合わせてブレーキをかけます
要介護者の身体をゆっくり起こし、ベッド端に腰かけさせて座位をとります
いったん立ち上がってもらうか、介助者が抱えるようにして軽くお尻を浮かせます
立ち上がったらゆっくり車椅子の方向へ身体を回転させます
車椅子の正面まで来たら、介助者は膝を曲げながらゆっくりと腰を下ろし、車椅子の座面に着席させます
このように、基本の流れは車椅子からベッド移乗の逆順です。ただし、いきなり立たせず、少し時間をかけて座位で様子を見てから移乗に移るとよいでしょう。また、立位が不安定な方は無理に立たせず滑らせる方法に切り替えることも検討してください。
ベッドから車椅子に移乗する際に介護者が気を付けることはありますか?
膝折れによる転倒と車椅子への転落に注意しましょう。ベッドから離床する場面では、要介護者が立ち上がる際に急に膝の力が抜けて崩れ落ちることがあります。特に、長期間寝たきりだった方や病後で安静が続いた方は要注意です。対策として、立ち上がる前に「気分は悪くないですか?」「立ってみて大丈夫ですか?」と声かけし、体調を確認してから移乗します。
立った後もすぐ動かず数秒様子を見て、ふらつきがないことを確かめてから車椅子へ移動しましょう。また、車椅子への着座が浅いと、腰が前に滑り落ちることがあるため、深く腰かけさせたうえでクッションやシートベルトで姿勢を安定させます。移乗直後は目を離さず、姿勢が崩れていないか確認することも大切です。これらに気を付ければ、ベッドから車椅子への移乗も安全に行えるでしょう。

