外務省は、2026年1月27日に、インドの西ベンガル州にあるコルカタ市近郊で、ニパウイルス感染症の発生を報告しました。ニパウイルスは、南アジアから東アジアの熱帯・亜熱帯地域に生息するオオコウモリを自然宿主とするウイルスで、高い致死率を持ちながら確立された治療法がないため、渡航の際は現地の最新情報と予防策の把握が不可欠です。この内容について増田先生に伺いました。
※2026年2月取材。

監修医師:
増田 道明(医師)
東京大学医学部を卒業後、同大学大学院医学博士課程を修了。東京大学医学部細菌学教室および東京大学医科学研究所での助手勤務を経て、アメリカ国立衛生研究所(NIH)へ客員研究員として留学。帰国後は東京大学医学部微生物学教室の助教授として研鑽を積まれ、その後は獨協医科大学医学部微生物学講座の教授を歴任。現在は獨協医科大学名誉教授を務める。長年にわたり微生物学・細菌学の教育および研究に尽力している。
ニパウイルスの発生状況とは?
編集部
外務省が発表した内容を教えてください。
増田先生
外務省が2026年1月27日に発表した注意喚起によると、インドの西ベンガル州にあるコルカタ市近郊で、ニパウイルス感染症の発生が報告されています。ニパウイルス感染症は、1998年から1999年にかけてマレーシアおよびシンガポールで初めて発生が報告されました。この流行では、オオコウモリからブタへウイルスが伝わり、ブタの呼吸器感染症の流行を介してヒトへ感染が広がった可能性が高いと考えられています。その後、フィリピン、バングラデシュ、インドでも発生が報告され、特にバングラデシュとインドでは2001年以降、ほぼ毎年のように発生が報告されています。
バングラデシュやインドの事例では、マレーシアの流行とは感染経路の特徴が異なり、オオコウモリの体液で汚染されたナツメヤシの樹液や果実、加工品などを口から摂取することで感染したとみられるケースが多く報告されています。また、フィリピンではウマからの感染例も報告されています。患者の血液や体液との接触によるヒトからヒトへの感染も報告されていますが、大規模な市中感染が起こった例は、これまでのところ報告されていません。
日本国内については、これまでニパウイルス感染症患者の報告はありません。さらに、国内でオオコウモリが生息する地域は小笠原諸島および南西諸島に限られており、現時点でニパウイルスを保有しているオオコウモリが国内で確認された報告もないとされています。
致死率は最大75%。WHOも警戒する「パンデミックの懸念がある感染症」ニパウイルスとは?
編集部
ニパウイルスについて教えてください。
増田先生
ニパウイルスは、南アジアから東アジアの熱帯・亜熱帯地域に生息するオオコウモリを自然宿主とするウイルスです。主にオオコウモリとの直接接触や、感染したブタやウマとの接触によって人に感染します。感染すると4日から14日程度の潜伏期間を経て、発熱、頭痛、筋肉痛などの症状で発症し、進行するとめまいや意識障害などの神経症状や呼吸器症状が現れることがあります。現在、有効性が確立された治療薬やワクチンはなく、致死率は40%から75%と報告されています。WHOは、パンデミックを起こしうる重要な感染症の一つとして位置づけています。
流行地域へ渡航する際は、コウモリやブタなど動物との接触、洗っていない生の果物の摂取を避けてください。手洗いや手指消毒を心がけることも予防に有効です。潜伏期は最長45日という報告もあるので、帰国後しばらくしてから発症することもあります。発熱や神経症状が出た場合は、速やかに医療機関に相談し、海外渡航歴を伝えてください。

