前駆期を過ぎると、狂犬病は急性期へと進行し、中枢神経系が侵されることで特有の強い神経症状が出現します。この段階では日常生活を維持することが困難になり、周囲も明らかな異変を感じるようになります。進行期の症状は興奮や錯乱が目立つ狂躁型と、麻痺が前面に出る麻痺型に大きく分けられ、どちらも最終的には生命維持が困難な状態へと至ります。本章では、それぞれの型の特徴的な症状について詳しく説明します。

監修医師:
小林 誠人(医師)
1994年 鳥取大学医学部医学科卒業
同年 鳥取大学医学部第1外科(一般・消化器外科)入局
1996年 大阪府立千里救命救急センターレジデント医師
1997年 鳥取大学医学部第1外科および鳥取大学大学院医学系研究科外科系専攻博士課程
2001年3月 鳥取大学大学院医学系研究科外科系専攻博士課程修了学位(医学博士)取得
2001年4月 大阪府立千里救命救急センター医長
2003年8月 兵庫県災害医療センター救急部副部長兼集中治療室室長
2005年9月 大阪府済生会千里病院千里救命救急センター(旧大阪府立千里救命救急センター)ICU室長兼救急医長
2008年4月 大阪府済生会千里病院千里救命救急センターICU室長兼救急副部長
2010年1月 公立豊岡病院但馬救命救急センターセンター長
2020年4月 (兼任) 鳥取県立中央病院救命救急センター顧問
2021年4月 鳥取県立中央病院高次救急集中治療センターセンター長,救急集中治療科統轄部長,
救急外傷外科部長,小児救急集中治療科部長
2025年9月 大阪府済生会千里病院千里救命救急センター部長,
外傷・急性期外科センターセンター長
■資格: 日本救急医学会指導医・専門医
日本集中治療医学会専門医
日本外科学会指導医・専門医
日本外傷学会外傷専門医
日本Acute Care Surgery学会Acute Care Surgery認定外科医
日本腹部救急医学会腹部救急教育医
日本航空医療学会認定指導者
日本急性血液浄化学会認定指導者
社会医学系指導医・専門医
麻酔科標榜医
狂犬病の進行期における深刻な症状
前駆期を過ぎると、狂犬病は急性期へと進行します。この段階では中枢神経系が侵されることで、狂犬病に特有の強い神経症状が出現し、病状は短期間で急速に悪化していきます。初期には「疲れているだけ」「ストレスのせい」と受け取られてしまうこともありますが、進行期に入ると日常生活を維持することが難しくなり、周囲も異変をはっきりと感じるようになります。
進行期の症状は大きく、興奮や錯乱が目立つ狂躁型と、麻痺が前面に出る麻痺型に分けられます。どちらの場合も最終的には呼吸や循環の制御が障害され、生命維持が困難になります。ここで重要なのは、狂犬病が「症状の強さ」だけでなく、「刺激に対する反応の仕方」に特徴がある点です。飲水や風、音、光といった日常的な刺激が引き金となり、強い痙攣や恐怖反応が起こり得るため、医療現場では慎重な管理が求められます。
狂躁型狂犬病の特徴的症状
狂犬病の約80%を占める狂躁型では、興奮状態や攻撃的行動が顕著に現れます。この型の代表的な症状として、恐水症と呼ばれる水を極度に恐れる状態があります。水を飲もうとすると喉の筋肉が激しく痙攣し、強い苦痛を伴うため、本人は「飲みたいのに飲めない」状態に追い込まれます。結果として、水そのものを避けるようになり、水の音やコップを見ただけで恐怖が増すこともあります。
また、恐水症と同様に、風に対して過敏になる恐風症がみられることがあります。エアコンの風や換気によるわずかな気流でも、喉や呼吸の痙攣が誘発され、強い不安や呼吸困難につながる場合があります。さらに、光や音などの刺激にも敏感になり、落ち着きなく動き回ったり、突然大声を出したりするなど、周囲からみて「普段と人格が変わったように見える」状態になることがあります。
精神症状も顕著で、幻覚、錯乱、興奮と沈静を繰り返す状態が見られます。体温調節機能の障害により高熱が続き、大量の唾液が分泌されて口から泡を吹くような状態になることもあります。唾液分泌が増える一方で飲み込みが困難になるため、よだれが増えたように見えることもあります。この時期の方は激しい苦痛の中にあり、医療スタッフも刺激を最小限にしながら安全を確保する対応を求められます。症状は数日間続き、その後、麻痺期へと移行していきます。
麻痺型狂犬病の進行
残りの約20%を占める麻痺型狂犬病では、興奮状態よりも筋肉の麻痺が主な症状となります。咬まれた部位から始まる麻痺が徐々に全身へと広がっていき、やがて呼吸筋の麻痺により呼吸困難に至ります。この型は狂躁型と比べて症状の進行が緩やかであり、意識が保たれる期間が長いことが特徴です。
麻痺型であっても、中枢神経系の広範な障害により昏睡状態に陥り、呼吸不全や心停止によって死に至ります。発症から死亡までの期間は通常1週間から2週間程度とされていますが、集中治療によって延命できる場合もあります。ただし、回復の見込みはきわめて低いのが現状です。
まとめ
狂犬病は発症するとほぼ確実に命を失う極めて深刻な感染症ですが、適切な知識と予防によって感染を防ぐことができます。日本国内では長年発生がない一方で、海外では今も多くの方々が犠牲になっています。動物に咬まれた際の迅速な対応、予防接種の活用、海外渡航時の注意、そして飼い犬への適切な予防措置が、この病気からご自身と社会を守る鍵となります。少しでも不安がある場合は、ためらわず医療機関や保健所に相談し、専門家の指導を受けることをおすすめします。
参考文献
厚生労働省「狂犬病に関するQ&Aについて」
国立感染症研究所「狂犬病とは」
厚生労働省検疫所FORTH「狂犬病」
農林水産省動物検疫所「犬、猫を輸入するには」
世界保健機関(WHO)「Rabies」

