●弁護士がストーカーの不満を受け止める盾になってくれる
「訴訟を起こすと、通常は加害者側も弁護士を立てることになります。警察から警告を受けただけでは、加害者の不満や怒りが収まりません。重要なのは、この不満や怒りを減少させることです。訴訟をすると、加害者が自分の代理人に言い分をぶつけることができます。
そして、加害者が被害者に電話をしようとしても、被害者弁護士が対応することになります」
自ら訴訟を起こさずとも、相手側から訴訟を起こされることも珍しくないという。
「婚約不履行だとか、交際中に暴言を吐かれたとか、デート代を返せとかありとあらゆることを言ってきます。匿名で誹謗中傷してくることもあります。そうしたときに、初期に弁護士に相談しておけば、その後実際に依頼してスムーズに対応してもらえるでしょう」
なお、男性は負い目があって警察に相談できないことが少なくないと小早川さん。
「男性は、相手から『避妊なしで性交渉された』『中絶をさせられた』『責任を取れ』などと言われ、自罰の意識から、別れてはいけないんじゃないかと思って耐えている人もいて、そのうちに被害が拡大していくこともあります。
女性は、交際中にDV的な支配を受けていると、じっと耐えることが防御であると無意識的に条件づけられ、または報復を恐れる心理から警察や弁護士などに介入を依頼できないということが起こります」
民事訴訟のメリットとしては、その過程で和解できれば、相手にカウンセリングの受診などのメニューをつけることもできる。
●専門家が警察に期待すること
川崎の事件の失態を受けて、警察は検証結果を発表した。報告書によれば、警察の対応には、署と本部の連携が形骸化し、機能不全に陥っていたことなど組織的・構造的な問題点があったことが指摘されている。そのうえで、警察は対処体制の強化、マニュアルの整備など再発防止策をおこなう。

「川崎の事件では、相手に禁止命令を出す判断ができたのに、出さなかった。そうした判断の見極めをしていく能力が求められます。所轄における判断・指示系統、本部と所轄の連携は改善されていかなくてはならないと思います。
警察は現場が経験豊富なわりに判断ミスが多く、ストーカーの心理も、被害者の心理もわかっていないのではないかと思います。
ストーカー被害者は警察に情報提供だけして被害届を出さないこともあります。しかし、それは助けてほしいというサインや事件の予兆を持ってきているのです。何を望んだらよいのかわからないという『被害者の意向』に従ってはならない場合があるのです。
被害者は強く温かく信頼できると感じられる警察官を求めています。しかし、被害者は警察の対応を冷たいと感じることがあります。『大変でしたね』『よく相談に来てくれましたね』などの言葉をかけられる警察官になってほしいです。
一方で、取り締まりが本分の警察に、被害者に好感度を与える対応まで求めるのは負担が大きすぎるのではという考えもあります。なので、地域のDV相談窓口のカウンセラーのかたに来てもらって、被害者が正しい意思決定ができるよう助けを求める方法も取り入れるのが良いのではないかと思います」

