サキイカ食べちゃって腰が抜けてかわいそうだった猫のミーコを、覚えていない母|清水ミチコ

サキイカ食べちゃって腰が抜けてかわいそうだった猫のミーコを、覚えていない母|清水ミチコ

清水ミチコさんの「朝日新聞」連載エッセイ「まぁいいさ」(金曜日夕刊・月1回)をまとめた文庫本『時をかける情緒 まぁいいさ』が発売になりました。平成から令和へ、自由自在にかけめぐる清水さんの情緒の味わいを、少しだけお裾分けします。

* * *

20代の頃、いい言葉をいただいたことがあります。何やってもうまくいかない、と、当時へこたれてた私に、バイト先のオーナーが「あらあ。人生、だいたい6~7割はつまらないようになっているものなのよ。うまくいってる時は、そのぶん感謝したり、うんと喜ぼう、と思ってるくらいでちょうどいいのよ」。

努力は報われる、みたいなことを言う大人がほとんどだったので、私は驚きました。自分以外、みんな幸せそうに見えるけど、実は色んな思いがある中を、前向きに生きているのかも。私はこの一見希望に満ちてはいない言葉に感銘を受け、時々コラムなんかでも披露してきました。

ところが先日、その方とお会いし、その話になったのですが、「あの~、私もその話を何かで読んだのだけど、清水さんの思い違いじゃないかな。私はそんなこと言ってないわよ~」と言うのです。

え~! 私は当時、その言葉をメモしてたくらいなので、絶対自信ある! とも思ったのですが、その方も嘘を言うような人物ではないので、自信が揺らぎました。メモにする時、もしかしたら私なりの解釈が入ったりしてなかったか、などと考えていくうちに、絶対に! とは言えなくなってきました。

でも、こんな風に驚くような記憶違いは、実はものすごく多いのかもしれません。先週は母親との電話で、小学生の時に飼ってた猫の話をしたら、「猫なんか飼ってた?」と言うのでビックリしました。

「飼ってたじゃん! 冬休みにサキイカ食べちゃって、腰が抜けてかわいそうだったミーコ、覚えてないの?」

しかし、今思えば当時代だった母は、仕事を終えて夕方帰宅すれば、自宅でやってたお店の手伝い、祖母の介護に育児や家事などで、鬼のような多忙生活。私の部屋でよく寝てた猫のことなどは二の次、三の次だったのかもしれません。

そんなことを思ってた矢先、ナイツの塙さんが、「僕の兄の取材記事を読んだりすると、昔の話が小さく捏造してあって、なんでこんな嘘を? って思います」と言っていました。ここぞ! と思い、私はこう言いました。「昔の話にはね、記憶違いが必ず存在するもんなんだよ!」と、実感を込めて。

口調が強かったのか、塙さんは「あ、はあ」とヒキ気味でした。

配信元: 幻冬舎plus

提供元

プロフィール画像

幻冬舎plus

自分サイズが見つかる進化系ライフマガジン。作家・著名人が執筆するコラム連載、インタビュー、対談を毎日無料公開中! さまざまな生き方、価値観を少しでも多く伝えることで、それぞれの“自分サイズ”を考え、見つける助けになることを目指しています。併設のストアでは幻冬舎の電子書籍がすぐに立ち読み・購入できます。ここでしか買えないサイン本やグッズ、イベントチケットも。