動物がつく土器
④「環状把手のある深鉢形土器」茅野市尖石縄文考古館 筆者撮影
中部高地の土器には、ヘビやカエル、トリ、イノシシなどの動物がモチーフとして描かれています。中でも際立って多いのがヘビで、単体としてだけではなく、ヘビと人間が融合したかのような神秘的な表現も多く見られます。
古来よりヘビは脱皮を繰り返すことから再生の象徴として、また毒ヘビは力の象徴として、神話の中に多く登場してきました。世界各地で信仰の対象となっている例も多く、この地域においても、ヘビは神聖な存在であったと考えられるようです。
⑤「顔面装飾付深鉢形土器」茅野市尖石縄文考古館 筆者撮影
フクロウのようなものが器面に張りつく土器も、この地域ならではの特徴です。ヘビが抽象的・神秘的にデフォルメされるのに対し、フクロウはどこか柔和で、可愛らしく感じられるものが多く見られます。
フクロウもまた、古くから世界中で愛されてきたモチーフです。「知恵の神」や「幸運を招くトリ」として語り継がれるその姿は、当時の人々の暮らしを穏やかに見守るシンボルであったのかもしれません。
動きを表現する土器
⑥「深鉢形土器」茅野市尖石縄文考古館 筆者撮影
人やヘビを、まるで「棒人形」のように表現した土器があります。これらのモチーフは土器の周囲を巡るように描かれ、まるで一連の物語を時系列に表しているかのようです。
極限までデフォルメされたデザインから、縄文人の多様な表現力や自由なアイデアを形にする遊び心が感じられます。
光を放つ土器
⑦「釣手土器」北杜市考古資料館 筆者撮影
内部に火を灯して使っていたと考えられる「釣手土器(つりてどき)」と呼ばれる土器です。一つの遺跡からわずか数点しか出土しないことから、祭祀などの特別な儀礼の際に用いられたと考えられています。
一般的な土器に比べて底が浅いのが特徴で、吊り手部分に「顔」が表現されていたり、複雑で立体的な造形が凝らされていたりと、ひときわ高い装飾性を誇ります。
実際に火を灯すと、土器の隙間から漏れる火影が幻想的な雰囲気を作り出します。土器から放たれる光と影の揺らぎを楽しむための、計算し尽くされた造形なのかもしれません。
見る者を圧倒する土器
⑧「日本の縄文時代に用いられた水煙文土器」出典:Wikimedia Commons
圧倒的な迫力で迫りくる「水煙文土器(すいえんもんどき)」は、中部高地の縄文文化を象徴する傑作です。1960年代のパリで開催された日本古美術展に出品され、新潟県の「火焔型土器」と並び、その美術的価値は世界的に高く評価されました。
渦巻き文様が幾重にも重なる塔のような巨大な把手は、激しく立ち上がる「水煙」を想起させる、立体的で量感あふれる美しさを放っています。
複雑な上部に対し、下部はやや膨らみを持たせたシンプルなバケツ形。上下の絶妙なバランスが、全体のプロポーションの美しさを際立てています。
この華々しい造形は、限られた遺跡でごく短い期間にしか作られていません。その希少性もまた、この土器をより神秘的で価値あるものへと高めています。
まとめ:物語は受け継がれる
ところで、このような「物語」はなぜ土器に表されたのでしょうか。
それはこの「物語」を語り継ぐ場が、まさに「土器を作る時、土器で煮炊きをする時、そして土器を囲んで祭祀を行う時」であったと考えられるからです。
世界各地の民俗事例では、土器作りは母から娘へと、代々女性の手によって受け継がれてきた例が多く見られます。彼女たちが伝え続けたい願いや記憶を土器に託し、その土器を囲む日常や祭祀を通じて、大切なことを次世代へと手渡していったのかもしれません。
八ヶ岳山麓の集落では、それぞれの大切な「物語」を土器という形に変えて継承し、独自の豊かな文化を育み続けていたのではないでしょうか。
*参考資料
「星降る中部高地の縄文世界」 山梨県立考古博物館
「縄文王国山梨」 九州国立博物館
