
監修医師:
大迫 鑑顕(医師)
千葉大学医学部卒業 。千葉大学医学部附属病院精神神経科、袖ヶ浦さつき台病院心療内科・精神科、総合病院国保旭中央病院神経精神科、国際医療福祉大学医学部精神医学教室、成田病院精神科助教、千葉大学大学院医学研究院精神医学教室特任助教(兼任)、Bellvitge University Hospital(Barcelona, Spain)。主な研究領域は 精神医学(摂食障害、せん妄)。
術後精神病の概要
術後精神病(術後せん妄)とは、さまざまな外科的な手術を受けたことを機に幻覚や妄想、せん妄、強い不安感、抑うつなどを認める状態を指します。
手術後にみられる精神症状のうち、中心となる症状はせん妄で、手術後2~5日で発症し、多くは2~5日続き、回復後は何ら精神的な後遺症を残さないものとされる。
手術の種類によって侵襲(しんしゅう=身体に与える負担)の程度は異なりますが、いずれの手術であれ、患者さんは不安を抱えることがあります。また、術後の創部に痛みを感じたり、入院によって普段とは異なる環境で長時間過ごしたりすることでも、精神的に不安定になることが考えられます。
このように術後精神病は、手術に伴う身体への侵襲、不安感、入院に伴う環境変化や昼夜リズムの乱れなど、さまざまな要因が重なることで発症すると考えられています。
特に、高齢者は加齢に伴う器質的な変化が影響して術後精神病を発症しやすいと言われています。また、悪性疾患の手術では、良性疾患と比較して手術時間や手術中の出血量も多くなりやすいことから術後精神病のリスク要因になるケースもあります。
主な精神症状がせん妄であるため、「術後せん妄」とも呼ばれます。術後せん妄は、手術から数日経過して急激に妄想や幻覚、錯乱などを認め、時間の経過とともに落ち着いていく状態です。
症状によっては、そこにいるはずのない人の声が聞こえたり、誰かの姿が見えたりすると訴えるケースがあります。また、夜間に大声を出して病室を飛び出したり、点滴などのチューブ類を抜いてしまったりすることもあります。さらに、時には物を投げるなどの興奮した状態になってしまうことも見られます。
一般的に、術後精神病は全身状態の改善、時間の経過とともに自然に軽快すると考えられています。しかし、高齢者など術後精神病を発症するリスクが高いと考えられる場合には、事前に手術に対する疑問や不安を軽減しておくことが有効です。
術後精神病の治療では、まず術後の全身状態の改善が必要です。その上で、発症者が不安を軽減できるよう配慮したケアがおこなわれます。また、必要に応じ、向精神薬を用いた薬物療法がおこなわれることもあります。

術後精神病の原因
術後精神病は、さまざまなタイプの外科的手術をきっかけに発症する可能性があります。手術に伴う身体への侵襲や創部の痛みに加え、入院に対する不安感、普段とは異なる生活習慣になることなど、さまざまな要因が重なることで発症すると考えられています。
発症の背景因子の一つに高齢であることが挙げられ、加齢に伴う脳機能の低下が術後精神病の発症に関与しているのではないかと言われています。また、高血圧や動脈硬化があることでも発症率が高まることがわかっています。
このほか、術後にICUに入室することも術後精神病の発症に大きく関わります。ICUに入室するほど侵襲の大きな手術を受けたこと以外に、心電図モニターや点滴、尿管チューブの挿入などの処置が精神的に悪影響を及ぼすことが考えられます。

