#3 面接にどきどきするサチコの前に現れたのは、三角巾に割烹着姿のおかみさん|群ようこ

#3 面接にどきどきするサチコの前に現れたのは、三角巾に割烹着姿のおかみさん|群ようこ

街のありふれた食堂「食堂キング」を舞台に、中年女性・サチコのささやかな成長を描いた、群ようこさんの最新長編小説『サチコ』。その冒頭部分を、地方新聞連載時に添えられた、阪口笑子さんの温かい挿画とともに、お届けします。

電話での感じがとてもよかったので、初対面の人と会うのは緊張してしまうサチコも、多少、気持ちが軽くなっていた。キングの引き戸は、二十年前と同じく、昭和のはじめの玄関みたいにがらがらと音を立てた。

「こんにちは」

声をかけたが誰も出てこない。もう一度、

「こんにちは」

と少し大きな声を出すと、

「はあい」

と声がして、頭に三角巾を巻き、烹着割を着たおかみさんが出てきた。二十年前と同じ格好だった。

「あのう、先日ご連絡した、スズキ……」

「ああ、はいはい、貼り紙を見てくれた人ね。そうか、今日だったわね。ちょっとここに座って待ってて」

彼女は四人掛けのテーブルのひとつの椅子を引いて、目で合図をした。

「はい」

いくつになっても、面接は慣れないと、サチコの胸はどきどきしてきた。これまで何度か面接を受けた経験はあるが、苦手なものは苦手だ。五分ほどして、おかみさんがやってきて、カウンターの一人掛けの椅子に座ってサチコと向かい合った。

「ごめんね、お父さんが今おやつを食べていて。お餅が焼きたてで、それを食べてからっていうから」

「どうぞごゆっくり」

「お近くなんですよね」

「はい、歩いて三分ほどです」

「へえ、どの辺?」

「神社の隣です」

「ああ、あのマンション? あら、あんな高級なところにお住まいなのね」

「いいえ、私が買ったわけではなく、親が買ったものに住んでいるだけで……」

「それじゃ、ご両親も一緒に」

「両親は亡くなりました」

「あら、そうなの。それじゃ、一人で介護も大変だったでしょうねえ」

彼女は気の毒そうにいった。きっと脳内では健気に両親の介護をしている、サチコの姿が浮かんだのだろう。実際には、サチコは一人でずっとその部屋に住んでいて、親の介護もしていなかったのであるが、ここでは説明する必要はないと判断して、

「はあ」

と昧曖な返事をしておいた。

配信元: 幻冬舎plus

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