消化管のどの部分から出血しているかによって、便に混じる血液の色や性状は大きく変わります。出血部位を特定することは、原因となる疾患を見極めるうえで重要な手がかりとなります。ここでは、上部消化管と下部消化管それぞれの出血の特徴について、詳しく見ていきましょう。

監修医師:
前田 孝文(南流山内視鏡おなかクリニック)
2001年3月京都府立医科大学医学部医学科 卒業
2001年4月〜2003年3月京都府立医科大学附属病院外科研修医
2003年4月〜2005年3月京都府立与謝の海病院外科
2005年4月〜2007年3月自治医科大学附属さいたま医療センター外科
2007年4月〜2011年3月自治医科大学大学院
2009年4月〜2009年9月University of Southern California, Department Colorectal Surgery, research fellow
2011年4月〜2012年3月自治医科大学附属さいたま医療センター外科 臨床助教
2012年4月〜2021年9月辻仲病院柏の葉 臓器脱センター医長(2020年4月〜)
2015年〜 骨盤臓器脱外来担当
2017年〜 便秘専門外来担当
2021年10月 南流山内視鏡おなかクリニック(千葉県流山市) 開院
2024年6月医療法人社団流輝会 設立
【専門・資格・所属】
医学博士
日本外科学会 専門医・指導医
日本消化器外科学会 専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
日本大腸肛門病学会 専門医・指導医
日本内視鏡外科学会 技術認定医(一般外科:大腸)
消化器癌外科治療認定医
身体障碍者福祉法指定医(ぼうこう又は直腸機能障害、小腸機能障害)
血便の原因:どこから出血しているのか
血便は消化管のどこかで出血が起きているサインであり、出血部位によって血液の状態や色が変わります。症状を正確に把握することが、原因を特定するうえで重要といえます。
上部消化管からの出血
食道、胃、十二指腸といった上部消化管から出血した場合、血液は胃酸や消化液と混ざり、時間の経過とともに黒く変色します。このため、便は黒色で粘り気のある性状となり、「タール便」と呼ばれます。タール便は独特の強いにおいを伴うことが多く、比較的少量の出血であっても目立ちやすい点が特徴です。
上部消化管出血の原因として多いのが、胃潰瘍や十二指腸潰瘍です。これらはピロリ菌感染や、非ステロイド性抗炎症薬(鎮痛薬・解熱薬など)の長期使用によって胃や十二指腸の粘膜が障害されることで発症します。空腹時の胃痛、みぞおちの不快感、吐き気、食欲低下などを伴うことがあり、出血量が多い場合には、めまいやふらつき、動悸といった貧血症状が現れることもあります。
また、食道静脈瘤は肝硬変や門脈圧亢進症を背景に生じる病態で、静脈が拡張・蛇行し破裂しやすくなります。破裂すると短時間で大量出血を起こすことがあり、吐血やタール便として症状が現れます。生命に関わる危険性が高いため、肝疾患を指摘されている方では、定期的な内視鏡検査によるリスク評価と、必要に応じた予防的治療が重要です。
下部消化管からの出血
大腸、直腸、肛門といった下部消化管からの出血では、血液が腸管の中に留まる時間が短いため、鮮やかな赤色を保ったまま排出されることが一般的です。痔核や裂肛など肛門付近からの出血では、便の表面に血液が付着したり、排便後にトイレットペーパーや便器内に鮮血が見られたりします。排便時の痛みや違和感を伴う場合が多く、出血量は比較的少量であることが多いですが、少量の出血でも便器が真っ赤になることもあり、不安を感じる方が多いです。
一方で、大腸ポリープや大腸がん、潰瘍性大腸炎など、大腸自体の病変が原因の場合は、血液が便全体に混ざり込むことがあります。この場合、便の色は暗赤色や赤黒く見えることがあり、粘液を伴うこともあります。大腸がんでは、血便に加えて便秘と下痢を繰り返す、便が細くなる、体重減少や貧血といった症状が現れることがあるため注意が必要です。
また、感染性腸炎や虚血性大腸炎といった急性の炎症性疾患でも下部消化管から出血することがあります。これらは腹痛や下痢、発熱を伴うことが多く、突然の血便として気づかれるケースも少なくありません。出血の色や量、腹痛や発熱の有無などを日頃から意識して観察しておくことで、受診時に医師へ正確な情報を伝えやすくなり、診断や治療の手助けとなります。
まとめ
血便は、痔のような軽度なものから大腸がんのような重大な疾患まで、多様な原因によって引き起こされます。色や形状、伴う症状を注意深く観察することで、ある程度の原因を推測することができます。鮮血が見られる場合は下部消化管からの出血が、黒色便の場合は上部消化管からの出血が疑われます。
ストレスや生活習慣も腸の健康に大きく影響するため、心身のケアを忘れずに行いましょう。規則正しい生活リズム、バランスの取れた食事、適度な運動が、消化器の健康維持に役立ちます。血便が続く場合や、腹痛や体重減少を伴う場合は、早めに消化器内科を受診し、適切な検査と治療を受けることが大切です。
定期的な検診を通じて、早期発見と予防に努めてください。特に50歳以上の方や、家族歴がある方は、便潜血検査や大腸内視鏡検査を定期的に受けることが推奨されます。自己判断で症状を放置せず、気になる症状があれば専門医に相談することが、健康を守るうえで重要です。
参考文献
(厚生労働省) 「大腸がん検診について」
(国立がん研究センター がん情報サービス 大腸がん)
(日本消化器病学会)「潰瘍性大腸炎ガイドライン」

