MDMAの使用は、心臓や血管系に深刻な負荷をかけ、体温調節機能を崩壊させるなど、生命を脅かす急性症状を引き起こします。若年層であっても突然死に至る危険性があり、たった一度の使用でも取り返しのつかない結果を招く可能性があります。この章では、MDMAが身体に及ぼす急性的な影響について、緊急性の高い症状を中心に医学的な観点から詳しく説明します。

監修医師:
大迫 鑑顕(医師)
千葉大学医学部卒業 。千葉大学医学部附属病院精神神経科、袖ヶ浦さつき台病院心療内科・精神科、総合病院国保旭中央病院神経精神科、国際医療福祉大学医学部精神医学教室、成田病院精神科助教、千葉大学大学院医学研究院精神医学教室特任助教(兼任)、Bellvitge University Hospital(Barcelona, Spain)。主な研究領域は 精神医学(摂食障害、せん妄)。
身体に及ぼす急性的な影響と生命のリスク
MDMAの使用は、精神作用と同時に、身体の様々な器官に深刻な影響を及ぼします。これらの身体的変化の中には、後遺症を残すものや、最悪の場合、死に至る重篤なものも含まれており、緊急の医療介入が必要になることも少なくありません。
心臓・血管系への深刻な負荷
MDMAは交感神経系を強力に刺激するため、心拍数や血圧が上昇し、動悸、胸部不快感、息切れ、不整脈などの症状が現れることがあります。これらの変化により心臓に大きな負担がかかり、特に基礎疾患のある方では重篤な合併症のリスクが高まります。
特に、もともと心臓や血管に疾患のある方や、そのリスクを自覚していない方では、急性心筋梗塞、大動脈解離、脳出血といった致死的な合併症を引き起こすリスクが著しく高まります。若年層であっても突然死に至った事例が世界中で報告されており、年齢に関係なく極めて危険であることが分かっています。心臓血管系への影響は、MDMAの使用が「ロシアンルーレット」のようなものであり、たった一度の使用でも生命を奪う危険性があることを示しています。
高体温症と体温調節機能の崩壊
MDMAによる死亡事例の多くに関わっているのが、体温調節機能の障害です。MDMAは脳の視床下部にある体温調節中枢に直接作用し、体温を異常に上昇させます。さらに、クラブやフェスなど高温多湿で換気の悪い環境での使用、激しく踊り続けるといった身体活動、発汗による脱水症状などが重なることで、体温が危険なレベルまで急上昇する「熱中症様の重篤な高体温」を引き起こします。
高体温症が進行すると、体温が41度を超えることもあり、全身の筋肉が融解する横紋筋融解症、急性腎不全、肝不全、血液が固まらなくなる播種性血管内凝固症候群(DIC)などの多臓器不全を引き起こし、極めて高い確率で死に至ります。一方で、脱水を恐れて水を過剰に摂取することで、血液中のナトリウム濃度が低下する「低ナトリウム血症(水中毒)」を起こし、脳浮腫による意識障害や痙攣、死亡に至るケースもあります。体温と水分バランスの調節機能が崩壊することは、MDMAの最も危険な作用の一つです。
まとめ
MDMAをはじめとする違法薬物は一度の使用でも深刻な健康被害をもたらす可能性があります。本記事で解説したように、身体的・精神的な影響は多岐にわたり、中には生命に関わるものや長期的な後遺症を残すものもあります。依存性の問題も深刻であり、自分の意思だけでは使用をやめることが困難になることがあります。しかし適切な治療と支援により回復は可能です。もし自身や身近な方が薬物問題を抱えている場合はためらわずに専門機関へ相談することをおすすめします。早期の対応がより良い回復への道につながります。
参考文献
厚生労働省「薬物乱用防止に関する情報」
東京都保健医療局「東京都薬物乱用対策推進計画(令和5年度改定)の策定」
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部

