パピルスが古代エジプトを動かしていた?映画『アンノウン: ピラミッドが語る古王国の記憶』

映画『アンノウン: ピラミッドが語る古王国の記憶』(2023)

参照:映画『アンノウン: ピラミッドが語る古王国の記憶』(2023)

エジプト、サッカラ。カイロから南へ約30キロメートルに位置する地帯です。そこでは、エジプト考古学のザヒ・ハワス博士とモスタファ・ワジリ博士が、「自らの手でエジプト学を変える」という想いを胸に、チームを率いて発掘作業に挑んでいます。

彼らが探すのは「第3王朝最後のファラオ」(統治期間:紀元前2637年〜紀元前2613年)と言われているフニ王のピラミッドです。文献上の情報は少ないものの、彼より以前の王は、ほぼ全員がピラミッドを建造しているため、「フニ王のものも必ずある」と博士たちは考えました。

花崗岩製のフニの頭像(紀元前2650〜紀元前2600年ごろ)/ブルックリン美術館花崗岩製のフニの頭像(紀元前2650〜紀元前2600年ごろ)/ブルックリン美術館, Public domain, via Wikimedia Commons.

盗掘されていない墓の発見も重要です。古代から現代に至るまで、エジプトの遺跡は常に「墓荒らし」との戦いでした。金銀財宝や調度品が手つかずで残っている墓を見つけるのは困難ですが、博士は考古学的知見を頼りに、あるエリアに狙いを定めます。

本作の見どころを、わたしは発掘現場の「生々しさ」にあると感じました。華やかな発見のニュースの裏に、数え切れないほどの空振りがある。作業員たちが汗と埃にまみれながら、地道な作業を続ける。そして暗く狭い地下通路の先で、待望の瞬間を迎えたとき、現場は喜びにあふれた一体感に包まれるのです。

現実には脚本がありません。このプロジェクトには考古学者としてのキャリアがかかっています。「何も発見できないかもしれない」というプレッシャーの中、それでも経験や仲間を信じ、決して諦めない姿から、知的好奇心の底力が伝わってくるようでした。

パピルスとは?古代エジプト文明を支えた記録媒体

ドキュメンタリー中、発掘チームは完全な状態の「パピルス」を発見します。現在の「ペーパー」の語源でもありますが、製法や性質は、現代人が普段使っているパルプ紙と大きく異なります。

原料になるのが、ナイル川の湿地帯に群生するカミガヤツリ(パピルス草)です。茎を切り出し、外皮を剥いて薄くスライスします。茎の柔らかい部分は食用となり、生または調理して食べられたそうです。この薄片を格子状に重ね合わせた後、プレスして乾燥させ、表面を滑らかに磨くことで、1枚のパピルスが完成します。

カミガヤツリカミガヤツリ, Public domain, via Wikimedia Commons.

「接着剤は使わないの?」と疑問に感じたかもしれません。実は、細菌の繁殖によって植物組織が粘着質に変化し、乾燥と接着を同時に実現できたといわれています。ただし折り曲げには弱かったため、アラビアゴムでパピルスを何枚もつなぎ合わせ、巻物として使用しました。

ファラオ時代、パピルスは亜麻織物に次ぐ主要輸出品で、物々交換の手段として用いられました。しかし、パピルスの製造は手作業で時間がかかり、高価だったため、政府用のパピルスを確保する目的で専売制も導入されていたそうです。

プトレマイオス朝時代(紀元前305年〜紀元前30年)には、エジプトの輸出品として各地に広まりました。しかし中国から紙の製法が伝来すると、徐々に伝統的なパピルスは生産されなくなります。20世紀後半からは土産物として製造されており、エジプト土産の定番という地位を確立しているようです。

本作で博士たちが発見したのは、全長16メートルにも及ぶ、完全な巻物状のパピルス(通称「ワジリ・パピルス」)でした。サッカラ墓地で発見されたヒエラティック文字(神官文字)のパピルスとしては、最大かつ最も完全なものと考えられており、現在はエジプト博物館に収蔵されています。

配信元: イロハニアート

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