《フネフェルのパピルス》に見る「死者の書」
パピルスといえば「死者の書」が知られています。歴史の授業で学んだ記憶があるかもしれませんね。これは古代エジプト文明の新王国時代(紀元前1550〜1070年ごろ)以降、ミイラとともに埋葬された葬礼文書です。エジプト神話の死生観を踏まえ、死者が冥界(ドゥアト)を無事に通過し、来世で復活できるよう、約200章にわたる呪文が記されました。
たとえば《フネフェルのパピルス》は、フネフェル(紀元前1310年ごろ)という書記官が亡くなり、その墓に収められた死者の書です。第19王朝のファラオ・セティ1世に仕えた執事だったこと、《フネフェルのパピルス》が芸術的に優れていることから、フネフェルは高い地位にあったと考えられています。
《フネフェルのパピルス》(紀元前1275年ごろ)/大英博物館, 審判の場面, Public domain, via Wikimedia Commons.
「審判の場面」を見てみましょう。左端にいるのが死者本人(フネフェル)です。隣のアヌビス神は死者を守護し、「2つの真理の広間」へ導きます。山犬の頭を持つ人間の姿をしていますが、これは古代エジプトにおいて、墓に住みついた山犬が死者を守っているように見えたからだといわれています。ミイラづくりの神としても崇拝されました。
パピルスの上部にいるのが、ヘリオポリス9柱神や陪審の42柱の神々です。死者は神々に対し、自分が生前に罪を犯さなかったことを宣言(否定告白)しました。ここでの道徳規範がどれくらいの強制力を伴っていたのか、エジプト学者の間では今でも見解が分かれているようです。
中央左に目を移すと、死者の心臓の重さを量る様子が描かれています。死者の心臓が、宇宙の摂理である「マアト」の羽と釣り合うか計測します。天秤が釣り合わないと、そばで待ち構えている怪物アメミットに心臓を食べられてしまい、死者として再生できません。
その結果は隣のトト神によって記録されます。もともと月の満ち欠けを記録する神でしたが、文字や数字を発明したとされ、あらゆる種類の学者の守護神になりました。死者の心臓の計量も含め、あらゆる種類の記録に責任を負う存在です。
計量に合格したフネフェルは、ハヤブサの頭を持つホルス神によって、玉座に座っているオシリス神に紹介されます。かつて豊穣を司る神でしたが、オシリス神話の誕生で冥界の王となった結果、再生の神、不死の象徴と考えられるようになりました。王権の象徴である杖と竿を持ち、ミイラ姿で描かれています。
その後ろには、妹であり妻のイシス女神と、その妹ネフティス女神が控えています。イシス女神は神々の中でも特に強い呪力を持っていたため、オシリス神が弟セト神に殺されたときは「生命の儀式」という呪文で甦らせました。家庭生活の女神であり、オシリス神話では理想的な妻・母の象徴となっています。
パピルスが古代エジプトを動かしていた?
行政文書から葬送文書まで、あらゆる物事を記録・伝達したパピルスは、古代エジプト文明の発展に不可欠だったことでしょう。映画『アンノウン: ピラミッドが語る古王国の記憶』で、「ワジリ・パピルス」が発見された瞬間、そうした古代の記憶が現代に蘇ったと感じました。約2500年の時を超えた歴史的ロマンを、ぜひ本作で味わってみてください。
