酷暑の中、娘を熱中症から守るため、車内を冷やす聡子。だが、そのエンジン音を合図に、美代子が飛んでくる。「連れ回すのは虐待」とののしられ、娘をうばわれそうになる恐怖。さらに、夜、浴室の換気扇から美代子の声がひびき……。
エンジン音を聞くとすぐに出てくる
最近は夏本番。1歳のりんにとって、熱中症は命に関わります。
私は出かける10分前に、車のエンジンをかけ、車内を冷やしておくのが日課になっていました。
でも、それが、お向かいに住む美代子さんへの「合図」になってしまったのです。
ブロロロ……と、エンジン音が響くと、お向かいの家のカーテンがサッと開きます。そして、私がりんを連れて車に乗り込もうとする時には、すでに美代子さんが仁王立ちで待機しているのです。
「聡子さん!また出かけるの?この暑い中、車に乗せるなんて虐待に近いわよ」
「えっ、車内は冷やしてありますし、目的地もすぐそこなので」
「目的地ってどこなの?スーパー?そんなの、信也さんにたのめばいいじゃない。りんちゃんを連れて行く必要なんて、どこにあるの?」
美代子さんの尋問は、まるでおまわりさんのようです。
外出が苦痛になる…
「どうしても今日、必要な離乳食のストックがありまして。すぐ戻りますから」
「いいえ、ダメよ。りんちゃんは私があずかる。涼しい家でお昼寝させてあげるから」
ことわってもことわっても、彼女は一歩も引きません。
それどころか、チャイルドシートに乗せようとする私の手をさえぎり、りんの顔をのぞき込みました。
「りんちゃ〜ん、暑いのにむりやり連れて行かれるの、いやでしゅよね〜?かわいそうに、かわいそうに…。ママは自分の用事ばっかりで、りんちゃんの気持ちを考えてくれないわねぇ」
(その言葉、そのままあなたに返してやりたい)
りんは、美代子さんの顔を見ると、おびえたように私の首にしがみつきました。
「美代子さん、娘がこわがっているので…。失礼します!」
半ば強引にドアを閉め、車を発進させました。
バックミラー越しに、不満そうな顔でこちらを凝視する美代子さんの姿が見えます。
「はぁ……外に出るのが苦痛すぎる」
ハンドルをにぎる手がふるえていました。

