知的障害は、知的な機能と、日常生活や社会生活を送るために必要な力(適応行動)が十分に発達しておらず、日常生活や社会生活のさまざまな面で困難さがみられる状態です。知的障害の症状は、患者さんの年齢や重症度、そして生活環境によって現れ方が異なります。本記事では、知的障害とはどういう状態を指すのか、その症状、そして利用可能な福祉制度などを解説します。

監修医師:
前田 佳宏(医師)
島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。
知的障害の基本的な症状

知的障害とはどういう状態を指しますか?
知的障害とは、知的な機能と日常生活や社会生活を送る力(適応行動)の両方に著しい制限がみられる状態を指します。これはおおむね18歳までの発達期に始まり、生涯にわたって続きます。知的な能力は、物事を理解し考えたり、判断したり、新しいことを学んだりする力や計画を立てる力のことです。適応行動は、日常生活や社会生活を送るための行動をいいます。
適応行動はさらに、概念的スキル、社会的スキル、実用的スキルにわけられます。概念的スキルは、主に知識の習得とそれを適用する能力のことです。社会的スキルは、ほかの方との交流や社会集団の一員として適切に行動するために必要な能力です。実用的スキルは日常生活を自立して送り、安全で健康的な生活を維持するために必要な能力です。知的障害では、これらの知的な機能と適応行動の両者で困難さがあり、さまざまな症状がみられます。
なお、現在は知的障害ではなく、知的発達症という診断名が使用されることもあります。
知的障害でみられる症状を教えてください
知的障害では、主に知的な能力と適応行動で困難さがみられます。まず、知的な能力の面での具体的な症状は次のようなものがあります。
新しいことを学ぶのに時間がかかる
読み書きや計算の習得が難しい
物事を理解したり、考えて判断したりが苦手である
目に見えない抽象的なことを想像することが難しい
学習した内容を状況に応じて応用することが難しい
言葉で説明されたことを理解するのに時間がかかる
などです。このように、知的な機能の面では、新しい情報の習得、理解、そしてそれらを応用する能力で困難さがみられます。適応行動に関する困難さは次のとおりです。
概念的スキル
・お金の計算が難しい
・時間の概念がわかりにくい
・問題が起きたときにどうすればよいか判断できない
社会的スキル
・うまくコミュニケーションをとることができない
・友達や家族との関係を築くことが難しい
・社会のルールやマナーを理解することが難しい
実践的スキル
・身の回りのこと(着替え、食事、入浴など)に支援が必要である
・お金の管理が難しい
・交通機関を使った移動が難しい
・家電製品がうまく使えない
ただし、これらの症状の現れ方や程度は一人ひとり大きく異なります。また、年齢によって困難さも違います。
知能指数(IQ)は知的障害にどのように関係しますか?
知能指数(IQ)は、知的障害の判断において一つの重要な指標です。ただし知的障害の診断や分類は、用いられる診断基準、医療や行政、福祉の現場などで異なります。厚生労働省が行った調査における知的障害の定義によると、知的な機能の障害は知能指数がおおむね70までとされています。知能指数はⅠ~Ⅳの区分に分かれており、Ⅰはおおむね20以下、Ⅱはおおむね21~35、Ⅲはおおむね36~50、Ⅳはおおむね51~70に区分されています。知的障害はこの知能指数と日常生活の能力水準をあわせて評価されます。
参照:『知的障害児(者)基礎調査:調査の結果』(厚生労働省)
知的障害はいつ頃から症状が現れますか?
知的障害の症状は、多くは発達期までに現れるとされますが、実際に症状に気付かれる時期は障害の程度によって大きく異なります。重度の知的障害の場合、乳児期から精神運動発達の遅れとして明らかになることがあります。
乳児検診などや小児科を受診した際などに発見されることが少なくありません。また、中等度の知的障害は、幼児期に言語発達や運動発達の遅れから気付かれる可能性があります。軽度の知的障害の場合、就学前までは目立った症状が現れないことも少なくありません。
小学校に入学してから学習面での困難さや、集団行動の難しさなどの状態が明らかになり初めて気付くケースがあります。このように、いつ頃から症状が現れるかは知的障害の程度や環境によって異なります。
【年齢別】知的障害に気付きやすいサイン

乳幼児期にみられやすい知的障害の症状を教えてください
乳幼児期は、身体的および精神的な発達の基礎が形成される時期です。乳幼児期にみられやすい知的障害のサインには、運動や言語、認知といった基本的な発達の遅れがあります。
首のすわりや寝返り、お座りが遅い
つかまり立ちや歩き始めなどが遅い
言葉の出始めが遅い、言葉の数が増えない
このように、運動発達の遅れや、意味のある単語が出ないなど言語の発達の遅れがみられることがあります。ただし乳幼児期は発達の個人差が大きい時期であり、必ずしも知的障害の症状であるとは限りません。気になることがあれば乳児検診や医療機関で相談するようにしましょう。
学齢期に知的障害かもしれないと感じやすい症状はありますか?
学齢期に知的障害かもしれないと感じやすい症状には、次のようなものがあります。
読み書きの習得に時間がかかる、または困難である
簡単な計算ができない、または大変時間がかかる
授業の内容が理解できない
同級生と比べて学習の遅れが目立つ
学年が上がるにつれて学習についていけなくなる
このような、学習面でのつまづきが明らかになるケースが少なくありません。また、集団生活における以下のような困難さがみられる場合もあります。
臨機応変な対応が苦手である
複雑な指示や抽象的な説明が理解できない
友達との関係を築くことが難しい
集団での行動やルールの理解や守ることが難しい
このほかにも、時間割の準備や片付けなどの身の回りのことがスムーズにできない、などがみられることがあります。
大人になってから知的障害に気付くことはありますか?
大人になってから知的障害に気付くことはあります。知的障害の程度によって困りごとが多くなる時期には違いがあります。特に軽度の知的障害の場合には、成人になってから、仕事や社会生活での困難さで初めて知的障害に気付くケースもあります。

