肺がんの1〜2%に発症する「ROS1融合遺伝子陽性肺がん」とは?治療の現状と課題を専門医が解説

肺がんの1〜2%に発症する「ROS1融合遺伝子陽性肺がん」とは?治療の現状と課題を専門医が解説

なぜ治療が難しいのか

脳に転移しやすい特性

ROS1融合遺伝子陽性肺がんの治療を難しくしている要因の一つが、脳転移の多さです。

肺がんはもともと脳転移を起こしやすいがんですが、ROS1融合遺伝子陽性の患者さんでは特にその傾向が顕著です。一方で、林教授は「抗がん剤というのは一般的に脳には浸透しにくい」と説明します。このため、せっかく肺の腫瘍には効いている薬でも、脳転移に対しては効果が限定的になってしまうことがありました。

薬が効かなくなる「耐性化」

もう一つの大きな課題が「耐性化」です。分子標的治療薬は当初は非常によく効くことが多いのですが、時間がたつと効かなくなってしまうことがあります。

耐性化の原因には、ROS1遺伝子自体の形が変わってしまう「二次変異」があります。林教授は「ある日突然鍵穴の形が変わって、今までの鍵が刺さらなくなる」と表現します。薬という「鍵」がROS1というタンパク質の「鍵穴」に合わなくなり、効果がなくなってしまうのです。

そのほかにも、別の遺伝子が活性化したり、肺がん細胞の性質自体が変化したりと、さまざまなパターンがあることがわかっています。

これまでの治療薬と限界

3種類のROS1阻害薬

ROS1融合遺伝子陽性肺がんに対しては、国内でこれまで3種類の治療薬が使用可能でした。いずれも「ROS1阻害薬」と呼ばれる分子標的治療薬です。

最初に登場したのがクリゾチニブで、奏効率(がんの大きさが30%以上減少した割合)は69%と高い数値を示しました。続いてエヌトレクチニブが登場し、奏効率75.8%、無増悪生存期間(がんが進行せずに安定している期間)は15.7カ月という成績でした。さらに近年ではレポトレクチニブも使えるようになり、奏効率77.8%を示しています。

効果と副作用の課題

しかし、これらの薬剤にはいくつかの課題がありました。

まず効果の持続期間です。クリゾチニブでは無増悪生存期間が1年半から2年弱程度、エヌトレクチニブでも15.7カ月であり、「よく効くが、いずれ効かなくなってしまう」と林教授は指摘します。また、一度ROS1阻害薬が効かなくなった患者さんに対しては、次の薬剤でも効果が3~4割程度に低下してしまうことも課題でした。

副作用の面でも問題がありました。クリゾチニブでは視覚障害(目が見えにくくなる、まぶしくなる、色の見え方が変わるなど)や吐き気、嘔吐、下痢といった症状が報告されています。エヌトレクチニブやレポトレクチニブでは、浮動性めまい(ふらふらする感覚)や味覚障害が高い頻度で見られました。

林教授はこの副作用について、ROS1阻害薬がROS1だけでなく神経に多く発現する「TRK」という別のタンパク質も一緒に阻害してしまう「オフターゲット効果」が原因だと説明します。つまり、「ROS1に対する薬がTRKまで阻害してしまう」という問題があるため、めまいや感覚異常といった神経系の副作用が起きやすかったのです。

このように、ROS1融合遺伝子陽性肺がんの治療には、脳転移への効果、耐性化への対応、副作用の軽減という複数の課題が残されていました。

配信元: Medical DOC

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