#4 「で、いつから来られる?」履歴書を流し見しただけのおかみさんにそう言われ…|群ようこ

#4 「で、いつから来られる?」履歴書を流し見しただけのおかみさんにそう言われ…|群ようこ

街のありふれた食堂「食堂キング」を舞台に、中年女性・サチコのささやかな成長を描いた、群ようこさんの最新長編小説『サチコ』。その冒頭部分を、地方新聞連載時に添えられた、阪口笑子さんの温かい挿画とともに、お届けします。

「あー、どうもどうも」

奥から半袖の調理白衣を着た店主が出てきた。

「こんにちは」

サチコは小さく頭を下げた。

「あー、はい、どうもどうも」

彼もぺこりと頭を下げて、カウンターの椅子を持ってきて、おかみさんの隣に座った。

「あの神社の隣のマンションに住んでいるんですって」

「へええ、それはすごいね」

「いえ……」

サチコが事情を話そうとすると、

「親御さんが住んでいたところを引き継いだんですって」

とおかみさんが代わりに説明した。面倒くさいので、サチコはそのままにしておいた。

「スズキサチコと申します。履歴書をお持ちしました」

近所のコンビニで買って記入を済ませた履歴書を渡すと、

「あら、まあ、ご丁寧に。うちは履歴書をお預かりするようなところでもないから、ねえ」

とおかみさんは店主に渡した。彼はざっと斜めに目を走らせたが、特に気にしているふうではないようだった。そして再びおかみさんに手渡した。同じようにざっと流し見ただけで、彼女もサチコの履歴には特に関心がないようだった。

「で、いつから来られる?」

おかみさんが唐突に聞いてきた。

「はっ?」

サチコがびっくりして聞き返すと、

「今、来ている子がね、急にやめるっていいだしてね。せめてあと一週間はいてくれって頼んだから、そのあたりから来てくれると助かるんだけど」という。

「一週間後ですね。大丈夫ですけれど」

「こういった店で働いた経験は……そうだ、なかったのよね。大丈夫。ただ私たちが作ったものを、お客さんにお出しするだけだから。でも、やっぱりそこには礼儀があるじゃない。そこだけちゃんとしてくれればいいの」

「はい」

「テーブルの上に音をたてて器を置かれたりしたら、やっぱりいやじゃない? 自分が店でされたらいやなことをしなければいいだけなのよ。ねっ」

おかみさんが店主のほうを見た。

配信元: 幻冬舎plus

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